第7話

白馬に乗ったお姫様が

お婿さん探しの旅をしています。



横道から

栗毛の馬に乗った若者が現れるや

お姫様の白馬にぴったり並んで


「ねえねえ、可愛いね。 整形?」



無作法な登場と無作法なお言葉に

お姫様は目をぱちくりです。


脇腹が当たりそうなので

お姫様の白馬がちょっと離れると

離れた分だけ

栗毛が詰めてきます


「逃げないでよ、なんもしないって!」

白い歯を見せて無邪気そうに笑います.。


チェックのシャツにダメージジーンズ、

少年のような恰好をしています。


お姫様は混乱しました。

警戒すればいいのでしょうか?

オコればいいのでしょうか?

それとも・・?



「ねえ、聞いてる~?見えてる~?、オレのこと」


「オレ」、と来ました。

お姫様が出会ったことの無いタイプです。

何者?


「ごきげんよう。あなたはどちらの王子様?」

我ながら馬鹿みたいな台詞だわ、

と思いながら

お姫様は努めて平静に訊ねます。


若者はクリクリッとした目を見開いて

「やっと、しゃべった!」

と言ってから

また笑いました。


「どこの誰でもいいじゃん。

 それよかさ~・・・」


更に馬を幅寄せしてくるから

白馬がよろめいて

お姫様も馬上でよろめきます。

危ない!


「おっとー!」


当たり前のように

若者はお姫様の身体を抱き留めました。

もはや

馬も人も、両方とも密着状態です。


お姫様は更なる混乱状態です。

無礼者、と怒ればいいのでしょうか?

ありがとうと礼を言うべきでしょうか?


どちらも言わぬうちに

若者が耳元でささやきました


「ねえ、オレとつきあって?」


・・・


「つきあいません!」

お姫様は若者をつき離しました。


今度は若者がバランスを崩し

落馬しそうになり、

何とか体勢を立て直します。


「あっぶね~。

 力強いね、なんかやってるの?」



やってますとも、婚活をな、

お姫様は心できっぱり、

お口でもきっぱり言いました。


「私は花婿を探して旅の途中ですの。

姫としての務めです。

おつきあい、などしている猶予はございませんのよ」


「その花婿、オレかもしんないじゃん」


「え!」


そうなの?

と、お姫様はまたもや混乱に突き落とされます。

イヤイヤ、そんな馬鹿な。

馬鹿でしょう、誰よアナタ。


白馬も頚をフリフリしています。

訳わかんない・・・


こんな時は

一旦退却だわ。


「どこのどなたか知らないあなた。

本当にご縁があるのなら

またお会いすることがあるでしょう。

ごきげんよう、さようなら」


若者は

あっさり離れて

不意に大人びた不敵な顔を見せました。


「もと王子だよ。今は勘当中。

この馬もレンタルなんだ」


なんですと?

レンタル馬?!

イヤイヤ、興味を持つべきではないわ。



「また会うよ

白馬の可愛いお姫様。

・・・運命だからね」


何その自信。

訳わかんない・・・


「ごきげんよう、もと王子様」



お姫様はなんだかクラクラしながらその場を離れました。

なんだか

何かに化かされたような気分です。


レンタル馬?

もと王子?

訳わかんない・・・


白馬も頚をフリフリしています。



「・・・運命だからね」。

イヤイヤ・・・・




お姫様の旅は続きます。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る