第5話

白馬に乗ったお姫様が

お婿さん探しの旅をしています。



痩せた馬にのぼりを立てて旅している王子様に出会いました。

大変恰幅のよろしい王子様で

馬の脚が、王子様の重さにプルプルと震えています。


のぼりには

「花嫁募集中」と描かれてあります。



お姫様は

「きっと、お声を掛けられるわ」と思い、

背筋をしゃんとさせました。



しかし

お姫様が視界に入っている筈なのに

王子様は

そんな様子をみせません。


見えてるけど気付かないような微妙な風情で

パカパカプルプルと馬を進めます。



通り過ぎられてしまいそうだったので

お姫様のほうから

パカラッ、と近寄りました。

「ごきげんよう、王子様」


王子様は

用意していたような

微妙に驚いたような

微妙な困惑顔を作って振り向きました。


「ごきげんよう」


 ・・・・・



ふたりの間に、微妙な沈黙が流れました。


え?、と感じるお姫様です。

思わずのぼりを確認します。


やっぱり、

「花嫁募集中」

と、描いてあります。



王子様の沈黙が長いので

お姫様は

王子様のお姿も確認してしまいました。


はしたないですが

王子様が黙っているので

間が持たなくて。



近くでみると

大層汚れていましたが、馬は一応白馬でした。

高級そうな鞍敷が、泥まみれで痛んでいます。

絹の手綱も、手垢でテカっています。

豪華なんだか貧相なんだかよく分からない、微妙な白馬です。



王子様も

自分の馬同様に

高級な服が着崩れて、

頭の後ろに寝癖が立っていました。

靴だけが、何故か、安物の新品です。

白馬の王子様に間違いはないのですが、

豪華なんだか貧相なんだかよく分からない、微妙さです。




「あ~・・」

王子様が口を開きました!



「アナタ、何歳ですか?」


「・・・・え?」


「だから、アナタ、何歳ですか?」


「・・・・」(がっちょーん☆)




「ああ、失礼しました。

私は29歳です」



いやいや、そうゆうことじゃなくて。

てか、29歳?!

見えない


じゃあ何歳に見えるかというと、それも微妙。

お姫様は思いました。



王子様は話し出すと饒舌で早口でした。


「私はこの秋に30歳になります。それまでに花嫁を決めておこうと思っています。男が30になって妃も連れていないのは情けないですからね。

私は人生計画をちゃんと考えている男なのです。私の妃になる花嫁は幸運ですよ。何しろ私が人生計画をちゃんと考えて、間違いの無いように人生を歩ませてあげますからね。

計画的ですから、お金の苦労もさせませんよ。無駄使いをしてしまわないように、管理してあげます。

私はとても面倒見の良い、抜かりの無い男なのです。親切ですよ!優しいとよく言われます。聡明とも、よく言われます。

花嫁探しだってそうですよ。

今のご時世、黙っていたって花嫁は来ませんからね。私はちゃんと、これこの通り、のぼりを揚げて街道に出ています。何をしているか一目瞭然でしょう?

他のボーっとした顔だけ王子様とは違うのです。これが、能力というものです。現に私は今まで何人もの何人もの女性から声を掛けられました。この実績が、私の行動の正しさを証明しています。」



王子様は手をシャープに翻して

「で?」

と、唐突にお姫様にフってきました。




「え?」


「で?!」

「ええ?!」



「おいおい!」

と、王子様は誰にともなく声を張り上げました。


「頭が、いや、失礼、記憶力が悪いのですか?

アノネ、

私、

アナタに、

訊きましたよねェ?」



「??」

お姫様は本当に記憶力が衰えてしまったような気分になりました。

(なんだっけ?)



「おいおい!」

王子様は再び対象不明の大声を発しました。



「だ・か・らァ~、

アナタ、

何歳、ですか?」



ああそうか~♪

じゃなくて。

他人に齢を訊く前にご自分の齢を名乗れ、ああ、名乗ってたか。くそぅ。



「レディーに齢を尋ねるのは失礼だと、あなたの国では習いませんの?」

お姫様も負けていません。



「驚いたな!ヒトの話を全く聞いていないのですか?

まあ、アナタはなかなか可愛いですし、大目に見ましょうか。

あのですね、私は、私の、妃になる女性をさがしているのです。

ホラ、ここ、描いてあるでしょう?読めますか?

自分の愛すべき妃に相応しい齢かどうか、最低条件を満たしているかどうか確認が必要です。いわば自分のことです。なにが失礼なものか。

他の王子様達は確認しないかもしれませんがね。そうゆうのって、遠慮といえば聞こえがいいが、つまりは愚かな連中の愚かな手落ちです。手落ちで不正直で妥協で失敗です。

私は正直者です。誠実とは、正直者の冠です。ああ、今ちょっといいことを言いました。

妥協も失敗もしない、誠実な男、それが私です。

パッと見可愛くても、いい歳の女性は多いですからね。確認が必要です。」




一瞬、褒められたような気がしましたが、微妙な気分です。

お姫様は、意地でも齢を教えたくなくなりました。


「あなたのお探しの花嫁は、何歳くらいなのでしょう?」

質問返しの術です。



そしてこの直後、

お姫様は、この王子様のスゴさを思い知ることになるのでした。

 ↓


 ↓


 ↓


 ↓ 

 

 ↓


「18歳以下です!」



お姫様は即座に返答しました。

「残念!私は19歳ですの! ごきげんよう!」


お姫様はパッカパッカと軽快にその場を後にしました。



勿論、本当に19歳なんかじゃありません。

知りたい?

レディーに齢を尋ねるのは失礼ですよ。



お姫様の旅は続きます。



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