第4話


白馬に乗ったお姫様が

お婿さん探しの旅をしています。



泥まみれで 穴を掘っている王子様に遭いました。



「ごきげんよう、王子様」

「やあ、ごきげんよう。お姫様」


王子様のお顔は

真っ黒に日焼けしています。

大きな 使い古された感じのスコップを手にしています。



「何をなさっていますの?」


王子様は

首に垂らしたタオルで顔の汗と泥を拭いました。


「井戸を掘っているのですよ。

この村には井戸が無いので

子どもたちが毎日

近くの川へ

水を汲みに行かなければならないのです。」


タオルには

「絆」と描いてあります。



「近くと言っても

子どもの脚では随分かかります。

井戸が出来れば

子どもたちは

学校に行くことも友達と遊ぶことも出来るのです。」


「それは良いですね。

良いことをなさっていますのね。」


「私がそうしたいからやっているのです。

誰かの幸せが

私の幸せなのです。」



王子様の背中は

労働による筋肉で盛り上がっていました。


先日遭遇した

お金持ちの若者の

雑誌モデル的プロポーションとは

まるで違います。


日焼けの色も

日サロとは

まるで違います。



お姫様は

王子様に水筒を差し出しました。


「ありがとうございます!

ああ、美味しいなあ・・・」


他人の水筒から美味しそうに水を飲む王子様を

お姫様は

とても好ましく思いました。



「とても親切でいらっしゃるのね。

親切な王子様、

私と結婚しませんか?」


「結婚ですか?」


王子様は目をパチクリしました。


「考えたことがなかったなァ~」


びっくりです。

結婚は

王子様として第一ともいえる仕事の筈です。



「お姫様、

私はこの井戸が出来たら

また次の村へ行って井戸を掘ります。

それが済んだら

更に次の村です。

自分のことをしている時間が無いのです。」


親切な王子様は

親切が大好きなのでした。


「さようなら、親切な王子様。」




お姫様の旅は続きます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る