第4話 おこさま、社をもらう 【前編】
「社が欲しい」
それが最近の或斗の口癖だ。
「小萌が楔としての自覚ができたのであれば、僕の方も何かしらの”すてっぷあっぷ”というのが必要ではないだろうか?」
或斗と一緒にやってきているのは、近所のホームセンターだ。最近では或斗はここに入り浸っては材木を見ている。
(社って神社のことかな?)
それにしても、手作りする気なんだろうか? いや、うちは確かに一軒家だけれど、神社を作れるほどの庭なんかないし、あと勝手に作ったらお母さんがなんていうか。
「やっぱり、耐久性から言えば桐か桂なんだけれど、杉や松の素朴さもまたいいんだよな」
材木の切れ端を並べて或斗がうんうんうなっている。今日もやっぱり決めきれなかったようで、リビングのソファーに寝っ転がった。私は冷蔵庫から出したサイダーをグラスに注いで或斗の側に座った。
「知らないよ………。もしかして、或斗が作るの?」
「え?」
「え?」
きょとんとして或斗がこっちを見た。
「小萌が作ってくれるんじゃないのか? ”楔”だし」
「いや、いやいやいや!!!??」
私は手を思いっきり左右に振った。或斗、私が図工苦手だって知ってるはずなのに!
「僕も手を貸すけれど、こういうのは人の子がやってこそのものなんだよ」
「そもそも、”楔”って何なのよ」
私の言葉に或斗が、あぁと間抜けな声を出した。或斗はふと考えるとお母さんから借りてきたタブレットを取り出した。そして、お絵かきアプリを起動して何か書きこむと私に見せた。
「僕は神様だけれど、半人前だって前に聞いたと思う」
「うん。月丸が言ってたね」
或斗が見せたのは、棒人間と矢印がいくつかかきこまれている。急いで描いているから棒人間になっちゃっているだけで、或斗は結構絵が上手い。売り物、というほどではないけれど、学校のイラストクラブで有名になるくらいには上手い。
「神様の力っていうのは、人間の信仰心や気持ちに左右されているんだ。だから、誰にも信仰されていない僕は半人前、って事なんだ」
「社が欲しいっていうのは、信仰を集めるため?」
「たしかに、信仰は欲しいよ。でも、それ以前に僕には御利益が無いから人間に信仰されるための条件が全くないんだ。だから、本来なら、僕は神様のいる高天原にいないといけない。そうしないと、僕は消えちゃうんだよ」
「でも、いるよね? ”楔”ってそういう事?」
うん、と或斗がうなずく。
「そう。僕とこの人間界を繋ぐ役目をしてくれているのが、小萌なんだ―――」
と、言いかけると或斗がはっと顔を上げて周りをきょろきょろとし始めた。
「なに?」
「墜神の気配がしたんだ。一瞬だったけど……」
「また、危ない事をしないよね?」
「うん。小萌を危ない目にはあわせないよ」
「そうじゃなくて……」
月丸と戦っていた時も、ボロボロになっていた。或斗は神様で、怪我をしても平気なのは分かっている。でも……。
私が言葉を探していると、或斗は窓際に移動して、空を見上げた。
「……何か聞こえないか?」
そう言われたので、私も耳を澄ませてみるけれど、何もおかしな音は聞こえない。
「調べてくる」
しゅん、といつぞや見た神様モードになった或斗がするりと窓から出て行った。
(あれ、壁抜けができるんだ……)
私は或斗が帰ってくるまで、リビングでごろごろすることにした。
「ただの雀の鳴き声だよね?」
聞こえてきた音といえば、スズメのさえずりだけだったから。
しばらくとり溜めていた番組を見ていると、突然悲鳴が聞こえてきた。
「うわああああああ!!!????」
すぐそばの道路だ!
私は慌てて玄関から外に出てみると、誰かが倒れている。そしてその上には或斗が腕を組んでいる。
「或斗! なにしてんの!? 人の上に胡坐かいて!!」
「なにって、この青年に墜神がついているから鎮めているんだ」
鎮めるって、力技でしかないの⁉
「ううん……」
ブレザータイプの制服を着ている男の人の側に学校指定のカバンが落ちている。学校のマークに”高”がついているから、高校生なのかしら。とにかく或斗をどけなくちゃ! お兄さんは前向きに倒れているから顔は見えないけれど、時々苦しそうに呻いている。
「或斗! どきなってば!」
「だから、墜神が……あれ?」
きょろきょろと或斗が周りを見渡し始めた。
「墜神が消えた……?」
「さっさとどきなさーい!」
私が大声を上げると或斗が渋々と下りてきた。神様なのは分かるけれど、今の或斗はどう見たって何の罪もない高校生のお兄さんを背後から襲った上にその上に座り込んだ悪ガキだ。
「なんだったんだ……? 急に転ぶわしばらく金縛りにあうわ……」
「金縛り?」
或斗が乗っている時に何かの魔法を使ったのかしら?
「お前、最近変なことをしてないか? どこかの墓を暴いたり、立ち入り禁止の所に入り込んだり」
「或斗!」
「君……何を言っているんだ?」
或斗の視線にたじたじになってお兄さんが答える。眼鏡をかけたお兄さんはどこか気が弱そうで、そんなことをするようには見えないのに。
「お前の体がから墜神の気配がした。お前、早く墜神を祓わないとと不幸に……!」
「いいかげんにしなさい!」
私は慌てて或斗を引っ張った。
「ごめんなさい! 悪気はないと思うの! 多分! ごめんなさい!!」
「新手の悪徳商売みたいだな……。僕は別に怪しい事はしてないさ。さっきはスマホで彼女と連絡を取ってただけだし」
ほらぁ、と私は或斗をせっつく。或斗はふぐぅと変な声を出した。人の恋路をジャマすると馬にはねられてしまうって岳斗君が言ってた!
「その”かのじょ”とやらに墜神が――――ぎゃふん!」
私は或斗の脇腹をひじで押した。
「なんでもないんです! ごめんなさい!」
私はぺこぺこ謝り、お兄さんから或斗を引きはがして家へを連れ込んだ。
「失礼なことをしないの!」
「だがな。墜神の気配がしたことは確かだ。あの青年、何か隠してはいないか?」
「そんなわけないでしょ! もー!」
「あの青年の学舎に行ってみないか? 兄上たちの学舎とは違うが、あの青年の持ち物の中に学舎の文様があったと思うが……」
う……。この流れ、絶対嫌な予感しかしない!
「小萌!」
ほらぁ。
「学舎に行くぞ!」
こうなると思った……。
結局、お兄さんの高校についても何もなかった。或斗はあのお兄さんを調べなきゃって言ってるけれど、大丈夫なのかな……。
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