第23話 問

「それで、話って? 多分サラッと話せる話じゃないんだろ?」




「そうだね。サラッとは話せない……」




神楽坂はじっと地面を見つめている。真夏だというのに夜風は冷たく、薄暗いこの公園の雰囲気も相まって肌寒く感じる。少し間を開けた後、神楽坂は話し始めた。




「私とある場所に来てくれれば、世界が救われる」




「……は?」




「皆知らないけど、実はこの世界は滅亡に向かってる。だけど、まず大山川君が私と一緒に来てくれれば……滅亡を少しでも食い止めることができるの。これは一刻を争う事態だから……早くして」




「え? いや、訳分かんないって!」




突然神楽坂から飛び出した意味不明な発言に到底頭は追い付かない。世界滅亡……? 冗談にしか聞こえないが、神楽坂の顔は 真剣そのものだ。




「……ていうか、仮に世界が滅亡するとして何で俺が神楽坂とどっかに行ったら食い止められるんだよ? ていうかその場所ってどこだよ?」




「それは……君が蝶の継承能力を保有しているから。……場所についてはまだ言えないけど、ここから近い所にあるよ」




「……蝶の継承能力を保有している人なら、俺以外に樋口さんもいると思うけど。樋口さんにもこのことは言ったの?」




「言ってない。……だって、私は君に来てほしいから」




そう言い、俺の手を握ってまっすぐな視線を向けてきた。




「……え?」




「細かいことは後で良いでしょ? さあ、早く行こう」




「いーや、良くないね! 1ミクロンも良くない!」




「は!?」




後ろからの大声に俺も神楽坂も思わず振り向く。声の主は、相羽さんだった。また少し笑みを浮かべながらこちらの方へ近づいている。




「相羽さん?」




「ラブラブしてるところ失礼して悪いけど、どうも話の内容が聞き捨てならないにも程があってねえ。いやぁ、私の人生史上一番聞き捨てならないこと話してたわ、神楽坂ちゃん。すごいわ」




相羽さんは、神楽坂の方を指さして言った。




「……そんな遠くから私たちの会話が聞こえるんですか?」




「ああ、聞こえるね……イヤホン越しに。少年、君の腕を見てごらん」




相羽さんは何か黒いトランシーバーのようなものを見せている。まさか……!?




「これ……盗聴器?」




腕に黒い正方形の薄板が貼られていた。どういうことだ……? いつ、どこでこんなものが……?




「そう。君、こんな夏なのにまさかジャージ姿ときたもんだからねえ。そりゃあ素肌じゃない限り腕掴まれたときにそんなん付けられても気づかんでしょ」




「……まさか、名護さんと上で話そうとしたときに?」




そういえば、あのとき……確かに腕を掴まれた。




「そ、悪いね。君と優花が何話すか気になって、私の盗聴欲が爆発しちゃったよ。まあでも、こんな感じで役立つとは思わなかったけどねえ」




相羽さんは、神楽坂の方を睨みながら近づいていき、彼女の手を握った。




「覚えておきなよ、少年。突然手や腕を掴んでくる女にロクな奴はいないって。……私含めてね」

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