第21話 七と九
俺は、名護さんに俺が体験した事件について相田に話したときのように起こったことをそのままに話した。当然、俺が銃を所持していることもだ。
「監禁されているところを兄が内澤を銃殺……ね。まあ、嘘をつく理由も無いから本当だと思うけど、ぶっとんだ話ね。てか、あんたの兄が銃を持ってるのも謎だけど、何であんたの居場所が分かったの?」
「さあ……それは分からないです」
確かにそうだ。あんな廃工場、たまたま通りかかるような場所では無いだろう。銃を持っていて……それを俺に渡して消えたことも謎だが、どうやって俺があの場所にいたことを突き止めて助けに来たんだ?……相変わらず蒼李は謎だらけだ。
「なるほどね。それで、相田って人はどういう人なの? 友達なんでしょ?」
「あいつとは高校からの同級生ですが……どういう人って言われても……普通に"良いやつ"としか答えようが無いです。優しくて、ノリが良くて俺なんかよりたくさん友達もいます。だから、別に内澤みたいなサイコって訳でも無いと思います。……まあ、内澤のこともあるから、本当の内面がどうなってるのかは分からないんですけど」
「そうよ。だから私たちは目の前にいる全ての人を疑ってかかる必要があるのよ。特に、サイコ野郎と仲が良かったあんたのお友達はね。それと……サイコ野郎の母親もね」
「母親……?」
「内澤七菜香さんのことよ」
「え、母親!? 姉とかそんなんじゃなくて、母親ですか!?」
七菜香さんは、多分20代後半くらいだ。その人の息子の内澤が中学生か高校生かって考えると……あの人いつ子供を産んだんだ? そんな若い頃に子供を産むほどヤンチャな印象は受けなかったが……。
「そう。まあこの話、タブーだけど。七菜香さんがサイコ野郎が銃殺されたのを知ったときも、確か相当動揺してた気がする。あんたの兄が殺したってことは言わないでおくよ。……じゃあこのくらいで良いよね、話。そろそろ下に行こう」
そうして、名護さんは階段の方へ向かって行った。内澤のこともそうだけど、またこの人から色々なことを教えてもらえた。
「何というか……名護さん、優しいですね。というか、お人好しなんですね」
「……え?」
「目の前にいる全ての人を全て疑ってかかる必要があるって言ってましたけど、また俺にこうやって色々なことを教えてくれて……本当にありがとうございます」
そう言うと、名護さんは少し驚いたような表情を見せたが、またすぐにいつものクールな雰囲気に戻った。
「別に、たまたま少し良心が働いただけよ。普段、私は……人を不幸にさせる人間だから。潤葉の言う通り……」
それを言い残し、名護さんは階段を足早に下っていった。
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