第16話 導く者

バチッ!




樋口さんは、自身の頬を思い切り叩いた。何してんだ……と思う間も無く、自身の頬に痛みが走った。




「いった!」




「……突然の乱暴を許してほしい。だが、これで私の能力は分かってもらえたと思う」




「これが……」




身体共有……自身の体への痛みなどが相手にも伝わるということか。樋口さんの眼はいつも通りに戻っている。




「……俺には、多分その継承能力?無いみたいですね」




頬をペチペチ叩きながら相田が言う。眼の色も普通だ。




「というか、蝶をイメージするから"蝶の継承能力"って言うなら……どこに"継承"の要素があるんですか?俺って誰かから引き継いだんですか、それを?……そんな記憶無いんですけど」




「そうなのか?私は、私の父親からこの能力を継承した。……だが、能力について知ったのは父が死ぬ間際のことだった。病で苦しんでいた父が突然能力について話し始めたのだ。『我が家には代々受け継がれてきたある力がある。その力の効力が発揮されたことは今まで無かったが、いつ"その時"が来るのかは分からない。そして、この能力は能力を持つ者が死ぬときに継承される』とな。まさか、"その時"が今だとは思わなかったが。君には、そんな記憶が無いのか?」




「はい。そもそもこの世界のループが19回目らしいですが、俺が気づいたのは今回が初めてです」




「なるほど……興味深いな」




そう言って、樋口さんはおもむろに立ち上がり、身なりを整い始めた。




「あの、どこかへ行くんですか?」




「『来てくれ』と言っただろう? 是非、君たちについて来て欲しい場所がある。どうだ?」




内澤のこともあって、俺は疑い深くなっていた。だが、樋口さんの眼や言葉には嘘のないように思えた。




「行きます」




「俺も、行きます」




俺たち2人は、樋口さんについて行くことにした。蒼李から授かった銃を大きなポケットの奥にしまい込んで。






〇〇〇〇〇






外は完全に真っ暗闇の中、街灯がポツポツと点いている閑散とした商店街の通りを歩いていく。シャッターを閉めている店も多い中、わずかにある飲み屋の方から喧騒が聞こえてくる。樋口さんは、迷いのない様子で歩いている。……一体どこへ向かっているのだろうか?




「ここだ」




そう言って、樋口さんは足を止めた。ここは……ファミレスだ。俺も前に何度か言ったことがある……店名は"Juicy Dragon"。中は明かりが点いておらず、外見は何の変哲もない普通のファミレスだ。どこからどう見ても閉まっている。ここが、俺たちを連れてきたかった場所か?




コンコンコココンコンコンコン。




すると、樋口さんは何だかリズミカルにドアをノックし始めた。……おいおい何してんだこの人?




それから数秒後だった。ファミレスの中の明かりが一斉につき、奥から人が出てきた。

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