第11話 兄弟

「大丈夫か、貞李」




「え……?おい……」




蒼李は落ち着いた様子で俺の体に縛られた縄を解いている。目の前に血で濡れた死体が横たわっているというのに、気にしている様子は無い。




「ちょっと……何で銃なんか持ってんだよ?てか何で……どうすんだよこれ!?」




「……」




「それに……どうやってここが分かったんだよ!?」




「……」




蒼李は俺の質問には答えようともせず、解いた縄と内澤の死体をじっと見て佇んでいる。そのうち、だんだんと目に涙が浮かんでいくのが分かった。




「……おい……こうなんのかよ……」




蒼李はそう言った後、俺の方を見た。目に溜まった大粒の涙が額に零れて落ちている。……何で泣いているんだ?人を殺した罪深さで苦しくなったとかか?




「貞李……お前に渡したいものがある……これだ」




渡されたのは、遂数分前に内澤の脳天を貫いた銃だった。小さいがズッシリとしていて、銀色の塗装が少し剥がれかけている。




「いや……こんなもの渡されても……」




「いや、受け取れ!」




蒼李は銃と共に俺の手を強く握りしめて言った。その迫真の声色と涙に思わず息を呑む。




「これは……お前に必要なものだ。受け取ってくれ。それと……俺はしばらくお前と会うことはない」




「え!?何でだよ……」




「それは言えない。だけど、俺とお前が再会するときは……そのときは……語り明かそう。これまでのこと、そしてこれからのことも。……じゃあ俺は行く。またな」




「おい、待ってくれよ!蒼李」




そのまま蒼李は工場を駆けて行ってしまった。遅い足で追いかけたが、工場の出口まで行った頃にはもう蒼李の姿はどこにも無かった。俺に残されたのは銃と内澤の死体……どうすれば良い?俺は取り敢えずポケットに銃を突っ込んで廃工場を跡にすることにした。




……今日も今日とて頭が限界だ。

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