第10話 偶然

「……目覚めましたか?」




「……へ!?は!?」




目が覚めると体と椅子は縄で縛りつけられて身動きが出来なくなっていた。内澤は目の前でペンチの先をイジっている。床にはナイフやドリルのようなものが散らばっている。……拷問器具ってことか?




「荒々しくてすいませんね。メールでは断わられたのに、まさか来るとは」




「……何で……俺にこんなことするんだ?」




「そりゃ、何でですかね?たまたまですかね?」




内澤はそう答えた。その答えに自身は何の疑念も持っていないと言わんとするような素直な表情だった。




「……は?……たまたま?」




「そう、たまたま。偶然っすよ。偶然この世界がループして、偶然僕がそれに気づいて、偶然僕とあなたが出会って、偶然僕が……こんな感じで……それだけですよ。僕は、結局全ての事象は偶然によって引き起きるんだと思いますね。僕らは偶然によって生かされ、偶然によって殺される」




「……偶然俺と会って偶然やってみたくなったから今こんなことしてんのか……?」




「ああ、そうっす……てか、もうお喋りは良いですか?」




そう言ってペンチの先を俺の指先の方へ向けた。まずい……俺はこのまま拷問されて殺されるのか?何か打開の手立ては……見つからない。取り敢えず、時間を稼ぐしかない。




「……待ってくれ。俺は結構内澤に聞きたいことがあるんだ」




「良いっすよ、何すか?」




「シルバーバーチを作った理由は何だ?俺に前話してくれたことが真実か?それとも単にここに呼び出せる知り合いを作りたかったからか?毎回ループ中に自殺していることも……嘘か?」




「シルバーバーチを作った理由は前話した通りですよ。あの頃の僕は……まだ正気を保っていられたんですよ。ああ、自殺していることは嘘ですよ。何か自殺してるって言ったら同情してくれるかなって思ったんすよね」




「……何で正気を保てなくなった?」




「何でって……分からないっすよ。まあ、それもぐうぜ……ん!?」




「え!?」




銃声が突然工場に鳴り響いた。それとほぼ同時に内澤の頭が銃弾に貫かれ、大量の血を吹き出しながら内澤は倒れた。少し呻き声を上げながら苦しみ、すぐに静かになった。




「何だよ、これ!?……一体誰が……」




「俺だ」




遠くの薄暗闇の方から人が見えた。それは、十数年来の見慣れた顔だった。




「……蒼李?」

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