第8話 嘘か真か

どういうことだ?……殺人鬼?この人の言ってる言葉の意味が理解できない。




「ちょっと、どういう意味ですか?ブラックジョークにしては笑えないですよ」




「ジョークじゃない、そのままの意味。拷問趣味の殺人鬼」




「……ちょ、はあ?」




動揺を抑えきれず、思わず頭を掻く。どういうことなんだよ、本当に……徹夜明けの朝みたいに、頭で上手く状況を処理することができない。そんな俺の様子とは逆に、名護さんは冷静に俺を見ている。




「どうせ、廃工場に来いみたいなこと言われたでしょ」




「……あ!確かに、言われましたけど……」




「そうやって、アイツはループの中でそこらの人たちを拷問して殺してんだよ。ループ後に人の記憶も何もかもリセットされることを良いことにね……まさか、自分で公園に呼んだ奴にそれするとは思わなかったけど。ループ後も記憶はそのままなのに」




……これを真実だと仮定すると、俺は超絶サイコパスの巧みな言葉に乗せられて自ら拷問殺人現場に向かおうとしていたということになる。つまり、昨日の告白もおそらく嘘だということだ……信じられない。……だが、そもそも廃工場というワードが一致しただけで名護さんを信用して良いのか。それに、もっと気になることがある。




「何で、名護さんは内澤がそんなことしてるって知ってるんですか?シルバーバーチの他のメンバーの人たちは多分知らないですよね?」




これだ。もし内澤が殺人鬼だということを皆知っているなら、白樺公園に普通に集まらないはずだ。ならば、何故名護さんだけが知っているのか?そして、何故何食わぬ顔で内澤と接することができるのか?疑問だらけだ。




「私の弟がやられたから」




「……弟?」




「何回目だったか……9回目だったかな。私の弟がアイツと友達だったんだけど、突然行方不明になって……色んな場所を探し回って、やっと辿り着いた場所が東の廃工場。そこで弟は血だらけで体のあちこちがぐちゃぐちなになって死んでた。それが、8月8日の深夜で……もし誰かに言うようならまた弟をこういう目にあわせるって言われたから、誰にも言えなかった。……今、あんたに言っちゃったけど」




「……そうなんですか」




……およそ信じられないが、これが真実なのだろうか。信じられない……いや、信じたくない。だが、名護さんが俺にこんな嘘をつく理由なんて見当たらない。




「……だから、あんたは工場行かない方が良いよ。これは私の良心だから、じゃ」




そう言い残し、名護さんは駅のホームへ向かっていった。……俺はどうすれば良いのだろうか。取りあえず、名護さんを信用することにしよう。そして、内澤にも後でこれが真実か確かめよう。……もし真実なら、何でそんなことをするのかも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る