第8話 二日目 夜
壁に掛けられた時計が、丁度20時を指していた。
「そういや、風呂まだ入ってなかったな」
入浴道具を一式袋に詰め込み、1階の浴室に向かおうとしたところ、御霊の部屋の前に誰かがいるのを見かけた。竹之内だ。
「分かりました。それじゃ、おやすみなさい」
竹之内が部屋の中に向かってそう言い、扉を閉じたところだ。察するに、御霊さんと会話をしていたのだろう。
「お、シンシン」
「どうしたんだよ、タケ。御霊さんと何か話してたのか?」
「まぁちょっと、お近づきになりたくてな」
そう言ってニヤける彼の印象は、朝の臆病な様子とは全く違っていた。いい意味で吹っ切れた様子だろうか。
「元気になったみたいじゃないか」
「俺は元からこんなだよ」
竹之内がニヤっと笑ったのにつられて、私も思わずニヤっと笑う。
「風呂入るのか?」
「あぁ」
「あがったら次俺入りたいから、ノックして教えてくれよ」
「分かったよ」
1階で竹之内と別れ、脱衣所に入る。そこには着替えている最中の下着姿の柾が!
………いる訳もなく、普通に風呂に入った。
湯船に浸かりながら、昨日今日あったことをぼんやり考える。どれも想像上の出来事の様であったが、紛れもない現実なのだ。
犯人はどんな奴なんだろう。竜大の皆や、御霊さんをその姿に重ね合わせる事がどうしても想像出来ず、全身黒タイツの犯人姿を思い浮かべる。
吊り上がった目、狂気に満ちた薄笑い、手にはギラギラに磨かれたジャック・ナイフ―――
そこまで頭に浮かんでから堪らなくなって、頭ごと湯船の中に沈めて目を閉じた。
* * *
前に、とある探偵漫画で読んだ時に登場した犯人。
トリックの為に死体をバラバラにしたり、筋肉番付顔負けのフィジカルトリックを、顔色一つ変える事もなくやり遂げていた。あんな奴が絶対に現実にいる筈がないと思い、苦笑してしまう。
そこまで感情を0に抑えられる様な人間に、殺意という最も強い感情を抱ける筈がないじゃないか。私なんて、今でもナイフを持つ手に汗が
それにしても、愚かな連中だ。
部屋に閉じ籠る事で、自分の身の安全が確保されると、本当に思い込んでいるのだから。
自らの手で密室を作り上げる事で、この殺人の演出の一助となっている事すら想像せずに。
あの探偵、御霊鏡子はこのトリックを見抜けるだろうか?
今回の殺人は、前の殺人よりも多くの証拠を残してしまうであろう事は分かっている。
だが、きっとあの名探偵だって、この不可解な状況には頭を悩ますに違いない。
さて、そろそろ時間だ。
私は相棒のジャック・ナイフを手に取り、準備に差し掛かった。
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