第7話 二日目 夕
18時半になり、新堂に声を掛け食堂で昼食をとった。相変わらず食堂は閑散としていたが、変化があったのが柾が食堂で本を読んでおり、私たちが来たことに気付くと「一緒に食べよぉ」と話しかけてきた事だ。
新堂が捜査の進捗について話すのを「うんうん」と頷きながら焼き鳥の缶詰を頬張っている。何故か七味唐辛子を山のようにかけて。
「どぉ?新堂くんは…御霊さんと仲良くしてる?」
「え?まぁ、うん、それなりに…」
唐突に質問を投げかけられ、新堂が右手に持った箸を止めてしどろもどろになっている。相変わらず読めない女だ。
「今夜はやっぱりみんな、バラバラに就寝するみたい。御霊さんも新堂くんも、戸締り気を付けてね」
「あぁ。柾も何かあったらすぐ知らせてくれ」
にこにこ頷きながら、柾は部屋に戻っていった。私と新堂もそれぞれ部屋の前まで戻る。
「御霊さん…」
「ん?」
「いえ、何でもないです」
部屋に入ろうとした刹那、新堂に呼び止められた。
「言いたい事があるなら言えるうちに言わないと、死亡フラグになるぞ」
私が笑いながら促す。
「そうですね。でもただ、気を付けてくださいねと言いたかっただけです」
「あぁ。今夜は部屋から出ないようにする。新堂も風呂から戻ったら、朝まで部屋から出るなよ」
「…はい」
部屋で何となくノートを眺める。時刻は間もなく20時。そのうち、ボールペンを手に取り、考えを纏める事にした。
―――――――――――――――――――――――――――
・破魔麟太郎
竜大ミステリ同好会のリーダー的存在で、今回の宿泊の立案者らしい。今回の事件の被害者。グループ内でも慕われていたようで、特段誰かから殺意を持たれていたような様子は見られず。
・井上素数
このグループ内では一番頭のきれる男。煽り耐性は余りない。今回の事件の計画性から鑑みると、犯人像としては最も的確。
・柾世良
ゆるふわ系女子。終始マイペースながらも、グループの和を取りなす女房役的存在。この状況下でも取り乱す気配はない。
・エミリー・パッチ
元気な外国人女子と思ったが、この状況で一番精神的に取り乱している。このパターンは次に殺される可能性大。
・新堂新
助手役を買って出る。表情に緊張感は少なく、かなり私の事を信頼してくれているようである。能力的に有能かどうかはまだまだ不明。
・竹之内宝作
―――――――――――――――――――――――――――
ここまで書いた時、ノックの音が耳に入った。
「御霊さん…居ますか?」
男の声だが、新堂ではないようだ。
誰の声だったか考えながら開けると、竹之内が外に立っていた。
「竹之内か。どうした?」
「助けてください」
竹之内が
「何がどうした」
「死にたくないんです。助けてください。俺を犯人から守ってください。何でもします」
到底演技とは思えぬ、鬼気迫る必死さだ。
「落ち着け。今の時間から、私に何をしろっていうんだ?」
「………」
竹之内は黙りこくったが、言わんとする事は想像できた。夜の間が一人でいるのが不安だから、同じ部屋で守ってくれ、つまり同じ部屋で寝させてくれという事だろう。
「同じ部屋で寝たいという事か?それなら、新堂か井上に頼んだらどうだ。私はお前を信用出来ている訳じゃないし、そもそも私は女だ。昨日会ったばかりの男と一夜を共にする趣味はない」
「…あいつらじゃ駄目なんです。信用できない。犯人かもしれない。御霊さんは、有名な探偵なんでしょう。それなら絶対安心出来ます。死にたくない。死にたくないんです。お願いします、お願いします……」
目に涙を浮かべ、何度も頭を下げるこの男を見ていると、段々哀れに思えてきた。
「竹之内」
「…………」
私は静かに首を横に振る。
「全員が一緒に寝るだとか、2組に分かれて寝るならまだしも、2人1組は私としては断らざるを得ない。だがな、今のお前の状態から鑑みるに、仮に私がそばに居たとしても、決して安心は得られないと思うぞ」
「ど…どういう事ですか」
「お前が恐怖の虜になっているからだ。お前自身が恐怖を克服しない限り、誰と一緒に居たって安心して夜を過ごせる事は絶対にない」
「………」
「気持ちで負けたら駄目だ。タフになれ。姿の見えない殺人鬼なんかに負けるな。私が、必ず犯人を見つける。そして、生きて帰るんだ」
竹之内の胸の前に拳を
「御霊さんは…強いんですね。若い女性だというのに、この状況で恐怖を感じないだなんて」
「いや…私だって怖いさ。けれど、びくびく怯えて何も出来ない人間になってしまう事の方が、殺人鬼なんかよりずっと怖い」
私は不敵に笑ってみせた。竹之内も漸く、笑みを零した。
「ありがとうございます。今夜は、一人で寝ようと思います。すいません、小さい時から、オバケとかが大の苦手で…みっともない姿を晒してしまいました」
「誰でも怖いものはある。恥じる様な事じゃないさ」
「…ところで、御霊さんが苦手な物ってなんなんすか?」
「バカ、それは秘密だ」
私と竹之内が笑う。再び竹之内の瞳の中を見たときは、先程までにはなかった強い力が込められている様に感じられた。
「それじゃ、おやすみなさい。御霊さん」
「あぁ、おやすみ」
竹之内の姿を見送りながら、ふと頭の中に閃くものがあった。
後で新堂と話さなくては。
そう思いながらも、心の中でざわつくものを、抑えられずにいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます