第4話 ぼくとおくさんのホワイトデーの件 台湾カステラ編
3月13日 夕飯前
「ちょっと、そこで反省しなさい」
ぼくはリビングで正座させられていた。
「無茶はダメって、私言ったよね?」
「すいません。ほら、明日はホワイトデーだから君のリクエストに応じて、台湾カステラ作るからさ」
「いっつも、あまいものでごまかそうとするよね?」
「はい…」
3月14日夕食後
翌日。
夕飯を食べ終えたあと、ようやく許してもらえたぼくはさっそくお菓子作りの準備に取りかかる。
昨日は色々やらかしたらいいところを見せないと。
ご飯を作るのも好きだけど、お菓子作りも大好きだ。
お菓子作りはレシピが命。
決して目分量とか舐めたことをしてはいけない。
ありがたいレシピ通りにつくるのが鉄則。
ここをごまかすと、できあがるのは暗黒物質(ブラックマター)なんてことが起きかねない。
使用食材はまず卵。これは使う直前まで冷蔵庫で冷やしておいたものを使う。
次に菜種油。基本的に植物油ならなんでもいいと思うけど、とりあえず今回はこれで。
そして薄力粉。これがないとね。
次は豆乳。これは無調整のやつがいいのかな。知らんけど。
そして甘みのためのきび砂糖。さとうきびから作られる、薄い茶色の砂糖だね。
「まずは卵を割っておくから、薄力粉をそこのざるでふるってくれるかな」
「ん、分かった」
割った卵を、うまいこと卵黄と卵白に分けておく。
電子レンジで豆乳を温め、その間に角型にレンジシートを敷いておく。
まあ、この辺で下ごしらえは終了だ。
次に植物油を湯せんで温める。
温度は50度くらいでいいらしい。
作るのは初めてなので、タブレット端末のレシピが頼りだ。
次に植物油に薄力粉を加えて混ぜる。
今度は豆乳を投入(ダジャレではない)して混ぜる。
いい具合になったら、卵黄も投入。
これで生地のできあがりだ。
この辺でおくさんには、使ったボウルなんかを片付けてもらう。
今度はメレンゲ作り。
さすがに手作業はしんどいので、ハンドミキサーに頼る。
抜ける手は抜くのがぼくのスタイルなのだ。
メレンゲができあがったら、さっきの卵黄生地と混ぜ合わせる。
これで、台湾カステラの生地のできあがり。
生地をさっき用意しておいた角型に流し込む。
「よーし、あとはオーブンにセットするだけ」
型をのせた天板に水を流し込む。何で水を入れるのか分からないけど、多分焦げ防止のためだろう。湯せんみたいな感じで。
「あとは焼くだけさから、何か映画でも見ててよ」
「例のアニメの劇場版、ブルーレイあるんでしょ?新しい方の1作目から見る」
「いや、そりゃあるけど。なんで?」
「どうせきみは今日早速みてきたんでしょ?」
「うっ、まあそうだけど…」
「どうせ2回目だって見に行くんだから、私も一緒に見るほうが良いでしょ?」
「そりゃそうだけど、6時間以上あるよ?」
「私の嫁力なめんな。それくらいどうってことないわよ」
えー?うちのおくさん、頼もし過ぎるんですけど。
あらやだ、漢気に惚れそう。
もうとっくに惚れてますけどね!
そこから約1時間、時おり焼け具合をチェックしつつ、映画を一緒に見る。
「お前も千葉県人(チバニアン)にしてやろうかっ!!」
という決め台詞(?)がきたところで、タイマーが鳴る。
ようやく焼き上がったみたいだ。
オーブンレンジから取り出すと、いい感じに焼き色がついている。
ここで慌ててはいけない。
まず型から取りだして粗熱を取るんだ、オーケー?
しばらく経ったら好みの大きさにカットするんだ。できたてを食べる場合は、形が崩れやすいから慎重にするんだぜ、ボーイ。
良い具合にカットして、おしゃれなハワイアンブルーの陶器に盛り付けて完成だ。
「出来たよー。せっかくだから、できたてをいただこうか」
そう言って呼ぶと、映画を途中で止めておくさんが食卓にやってくる。
「はじめてにしては、うまくできたと思うんだけどな」
そう言って、彼女の前にカステラを差し出す。
もちろん、淹れ立ての紅茶も忘れずに、だ。
「あ、これ美味しい。甘すぎないから、食べやすいわね」
「どれどれ。うん、まあまあかな。もう少し砂糖増やしてもいいかもだけど」
「来年もリクエストしていい?」
「もちろん。といってもぼくに作れそうなやつに限るけどね。ご満足いただけましたかな、姫さま」
「うむ、苦しゅうない。よきにはからえ」
やれやれ、ようやくぼくのお姫さまのごきげんを直せたようだ。
やっぱり、彼女はぼくの最高のパートナーなのだ。
(おしまい)
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