3-4.part.Y:順調に

「……降参、です」


 おでこに銃口を突きつけられた男性が、かすれた声で呟いた。言葉とは裏腹に、目には不満げな色。口先はタコのように突き出ている。


「お気の毒さま!」

 ポアくんの高い声が部屋に響いた。


「ボクみたいなクソガキ相手に、手も足もでないなんて、納得できないよねー」

 どこか他人事のように言い放つポアくん。綺麗な銀髪がさらさらと揺れる。

 小さな顔で、凛と整った目鼻立ち。小柄な体躯に、か細い手足。華奢な少女のようにも見える彼の手にはハンドガンが握り締められている。今にも引き金を引かんばかりの緊張感。


 彼の淡い瞳が男をじっと見つめた。


 たったひとりで、もう何連勝もしているポアくん。対戦相手たちはみなその可憐な容姿に心を奪われた。

 "こんな可愛い子に負けるわけない"。"それより、勝てば、もしかして…"。

 きっと彼らの敗因は、そんなほんの少しの下心と油断。

 この男の人も同じ。そして、余裕ぶっていた最初の態度はどこへや、ぷるぷると小刻みに震えつつも、カッと開いた眼でポアくんから目を離さない。


「お兄さんの立派なプライドのためには、殺しちゃった方がよかったかな?」

 その慢心も、恐怖も、怒りも。すべて蔑むように鼻で嗤って、ポアくんは引き金を引いた。


 部屋に銃声が響いて、男の頭が弾けるようにのけ反った。


「……っ!!」

 そして、彼の身体はそのまま仰向けに倒れて……消えた。まるで、煙みたいに。

 ヤクザのおじさんのときとは違って、あとには塵すら残らない。


「殺したわけじゃないよ」

 ちょっぴり怖くなって黙っていると、ポアくんは投げやりに言い放った。

「時間だっただけだよ。タイムオーバーってわけ。現実の世界に戻ったの」

 彼はぐっと伸びをしながらそう言った。僕たちに背を向けたままで。……彼らしくなくて、少しうわずった声だった。


 ――僕はポアくんに何か言いたいような気がしたのだけど。何か言わないといけない気がしたのだけど。それが何だか分からなくって。ただ黙って彼の背中を見つめていた。


「…あ~、え~っと?お三方?」

 調子外れに明るい声が部屋に響いた。七篠P。未だに正体不明で影しか見せない謎の人物。いや、人なのかも分からないけど。

「みなさまもそろそろご帰還の時間になるかと思いますが、いかがなされますぅ~?」


「帰ります。今日はもういいよね、よっぴー?」

 振り向いて、そう言ったポアくんはいつも通りの彼だった。僕にはそう見えた。

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