3-3.part.T:砂は風に流れる
気づけば、もう終わっていた。
「勝者、鈴木ポア氏ー!」
部屋に響くひょうきんな声がどこか虚しい。突如開いた扉から風が流れ込み、部屋に残った砂山をさらさら外へと掃き出すように崩していく。
スタングレネード弾の余韻で、まだ頭がぼんやりしている。
……ココはドコ?ワタシはダレ?
ここは不思議な塔で、俺の名前は
ハァ。『しっかり観てて』って言っておいて、あんな攻撃をするなんて酷いぜ、ポアちゃん。
勝負はどうなったのだろうかと顔をしかめながら、部屋を見渡す。相手の男の姿はどこにも見当たらなかった。
同じようにキョロキョロしていた芳生くん。急にハッとしたように外へと流されていく砂の山を見つめる。つられて、そこをよく見ると、そこにあの男の入墨によく似た模様が見えた……。
「しょうがないよ…」
ポアちゃんが扉を見つめて、言い訳するようにつぶやいた。
「“願い事”が裏目に出ちゃったんだ。ボクも命まで奪うつもりなかったんだけどね」
肩をすくめる彼女に寒気がした。俺はこの子を信じていていいのだろうか。いくら可愛い女の子とはいえ、あまりに落ち着いた様子を恐ろしく感じた。目の前で人が死んだのに、自分のせいで死んだのに、少しの恐怖もないのだろうか。
でも、そのとき聴こえた「ありがと」といつ芳生くんの呟くような言葉。ハッとして、すぐに同意した。
「そうだよ!ホントにありがとう!ごめんな。俺の方が大人なのに。こんなにも役に立てなくて」
代わりに戦ってもらっておいて『この子が恐ろしい』なんて、俺はなんておこがましいんだ。
「いいんですよ!気にしないで!」
そう手をパタパタ振る彼女は本当に何でもなさそう笑っていた。やっぱりとても可愛かった。
「……で?七篠P。
もしかしてガイドしてくれたりすんの?」
そう壁に向かって彼女が尋ねると、彼女の黒い影がぐにゃっと笑うように
「ええ。予想以上の活躍でしたので、もうしばらくご一緒させていただこうかと」
よく分からないヤツだけど、まぁ案内してくれるなら、少し心強いよな。いや、かなり心強いな!他の人には付いてないっぽいしな。
「……ぇ?!茶番?どういう意味?」
ふいに側の芳生くんが小さく声を洩らした。
振り返ると目が合う。俺に聴かれると思っていなかったのか、彼は慌てて照れ隠しをするように笑ってみせた。
「あ…いや、その、氷上さまが……じゃなくて、えっと、その、何でもないです!!」
氷上さん?蛭浜さんたち会社の仲間かな?
俺だけはふたりと現実でのつながりがないというのが、少し寂しい。
「おっと。すみません」
突然、よろけたポアちゃんにもたれかかられた。触れた部分の熱がグッとあがったのを感じる。女の子に触られたくらいで、赤面してしまうなんて恥ずかしい。まるで男子中学生みたいじゃないか。……いや、ホントに同級生にこんなに可愛い子がいたなら、もっと緊張するし、見栄だってはっていただろうな。
悶々と考えている俺のことなんて気にもならないように、ポアちゃんは準備運動をしている。
「まるでエレベーターみたいですね」
突然何の話かと首を傾げると、彼女は床を指さす。下を向くと軽く目眩がした。これは。
「部屋が上昇しているんです。
連戦する羽目になりそうですね」
ポアちゃんが苦笑いを浮かべたときに、気持ち悪い浮遊感を感じた。部屋の上昇が止まったのか。
「それでは♪お
壁では俺の影が、狂ったピエロのようにケタケタ揺れていた。
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