2-7.part.Y:心も足も浮き立ち仰ぐ
“初めてのこと”と向き合う前は、 いつも落ち着かない。
窓の外には、地平線の見えるほどの荒野。そこには、草木は無く、ぽつぽつと四角い建造物点在している。そして、それが積み重なったような
明らかに現代日本の景色ではない。でも……。
「もう!何をニコニコしてんだよ!」
頬を抑えて顔をあげると、僕の肩を小突くポアくんも、愉しそうに笑っていた。無意識にワクワクが顔から洩れてしまう。
僕たちはポアくんの“部屋”で、外に探索に行く準備中。彼が願った武器や食糧やなんかを鞄に詰めていた。
今回は、外の状況を知ることが目的だ。余力があれば、可能な範囲で、他の喚ばれた人たちとも接触する。
ちゃんと、頭では未知の場所の危険性を理解している。そのつもりなのに、溢れる期待で胸が膨らみ、心が浮き立つ。もちろん、ドキドキで浮き足立ってもいるんだけれど。
不安と期待の入り交じった胸の鼓動は、バックンバックン、うるさくて堪らない。
ハァ……。足や心どころか、肩まで浮かんで行ってしまいそう。
「さぁ、行くよ!」
ガチャっと扉が開き、外からの光が射し込む。
僕に向かって手を差し出すポアくんの姿は、逆光で何だか映画のワンシーンみたいだった。
ポアくんの部屋は、いくつか扉が付いていた。はじめ、彼はただの夢だと思って、何度か外をウロウロしていたらしい。
ちゃんと願い事をしたのは、僕と話した後なのだとか。
「気づかずに変な願い事しなくて、ホントよかったよ!
うっかり目が見えなくなったりしてるところじゃん」
想像した僕は、思わず身震いした。周りが見えない世界で生活するなんて。漫画も映画も見れないし、部活も出来ない。それどころか、生活だって、どうなるのか、想像もつかない。
「それに、こんな面白い世界を見れなくなるのももったいないよなぁー」
いたずらっぽく笑うと、両手を広げて、舞台で踊るようにクルクルと歩き回る。
彼の足が、さらさらとした砂に連なる円を描いた。固い地面を薄く覆う少しピンクがかった色の砂。
なんだか、目が少しショボショボする。
辺りをじっくり見渡すと、世界自体がぼんやりしているような気がした。遠くまで見渡せるのだけれど、何だかピンクの霧がかかっているような。
肩を叩かれて振り向くと、いつの間にかポアくんはワインレッドのゴーグルをしていた。深い赤色が彼の銀髪にとても似合っている。
「
彼の差し出した藍色のゴーグルを有り難く受け取り、ふと見上げると、曇りだと思っていた空には雲ひとつなかった。いや、雲だけではない。
そこには、いつか見た“無色の空”が広がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます