2-6.part.R:居間の会議じゃ踊れない
少しして居間へ戻ると、ポアちゃんは何やら先輩と意気投合したらしく、愉しそうに話し込んでいた。
「…やっぱりアバレキラー良いですよね。
暗黒の鎧が好きなんですけど、キラーのラストも好きです」
「あぁ、いいよな!いいよな!!俺も好きだよ!!
鎧といえば、リュウソウジャーでもさ…」
…何の話をしてるのかサッパリ分からない。
「ねぇ、山野さん!令ちゃん来たよ」
「おう、ありがと。芳生くん」
さすがは芳生!弟分!私がしびれを切らす前に、気を利かせてオタク談義を止めてくれるとは。
「…ちなみに、仮面ライダーなら、平成最後のライダー、ビルドがオススメなので、是非見てください」
おぉ、ブラザー…お前もか!
「ふふ、男の子はヒーロー好きね」
飲み物を並べながら、エビちゃんが微笑んだ。
「はぁ…。別にいいんスけどねー。拗ねて部屋に行ったの私だし。
てか、エビちゃんだって、男じゃん」
「もちろん、アタシも好きよ。…でも、愛し方が違うのよ。人それぞれに愛し方はあるの」
「ふぅーん…」
伏し目がちに言う彼を横目に、私は注いでもらったグラスに口をつけた。キンキンに冷えたコーラがパチパチと弾けながら、喉を通りすぎていく。
――よく冷えたコーラを飲むと、たまにあの彼の瞳を思い出す。
三人が観ているテレビの音が響くリビングでの時間。穏やかな光を映す眼鏡の奥で、深く暗い色を
「じゃあ、作戦会議を始めましょうか」
お誕生日席に陣取ったエビちゃんがニッコリ笑って、口を開いた。
「何で、補佐のお前が仕切んだよ…」
いつものように甘々のホットコーヒーを
「まぁ、山野ちゃんに任せちゃってもいいんだけれど…」
エビちゃんがチラッと視線を送ってきたので、慌てて小さく首を振った。
「…リーダーには作戦のことに集中してもらう方がいいかなって。
まぁ、一応アタシが年長なんだし、会議の
渋々うなずく先輩を見て、私はホッと胸をなでおろす。先輩の話は長いのだ…。進行役になんかしたら、倍の時間はかかってしまう。
「じゃあ、まず私たちの今回の仕事について確認ね。
今回の依頼は、“願いを叶える部屋”に喚ばれてしまう川崎芳生くんを護衛すること。
また、“部屋”は数々の行方不明者を生んでいる
つまり、依頼は芳生くんの護衛だけど、“部屋”を何とか出来れば、ボーナスアップよ!!」
「待って、ポアちゃんは?」
彼のことを私はちゃんと聞いていない。
何故、ただの中学生を作戦に巻き込んでOKなのか……。監査部を兼任するエビちゃんが反対しないということは、会社とも連絡はとっている筈だけど。
「あぁ、ごめんね。説明してなかったわね。
彼も喚ばれたんだけど、向こうで自分の“部屋”を芳生くんの“部屋”と繋げたのよ。それに加えて、他にもいろいろと“願い”を叶えちゃったみたい…」
エビちゃんは困った顔をする。
「じゃあ、その代償は?
芳生はコーラとソファと掃除セットの代償で、三日間寝てたんだよ。少なくともニ日分以上の時間が代償になってるハズ。
いろいろ叶えちゃったハズのポアちゃんが今起きてるってことは、彼の代償は時間じゃないんでしょ?何なの?」
「ボクは髪と爪です」
手を挙げたポアちゃんが口を挟んだ。
「よっぴーに代償の話を聞いて、伸ばしていた髪と両手の爪を深爪になるくらい切って置いてきました」
「ポアくんの髪は、腰くらいまであるのに、凄く綺麗な長髪だったんだよ」
芳生の言葉を聞いて、ポアちゃんを見た。ただのざんぎりボブかと思っていたけど、言われてみれば、少し斜めになっているような気もする…。顔が良過ぎるから、多少変な髪型でも似合っちゃうんだよなぁ…。
「でも、それだけじゃ足りなかったみたいで、戻ってから、両足の爪が全部剥がれました。超痛かった…」
整った顔をギュッとしかめるポアちゃん。足が包帯でぐるぐる巻きなのはそういうことだったのか。
「まぁ、それぐらいで済んでよかったよ。
これくらいの傷なら、俺でも処置出来るし。ほら、座敷童子の力もあるから。
…そういや、“願い”を叶えて貰ったものの中に、武器と窓もあるんだろ?」
「あぁ、はい。
何が起こるか分からなくて怖かったので、刃物と銃器を。あと、外の様子も知りたかったので」
「…そうか。つまり、武装も侵入口も確保出来てるってことだよな。
…ホントはこんなこと頼みたくないんだけど…」
チラッとエビちゃんと視線を交わした先輩は、少し後ろめたそうに言った。
「向こう側の探索を二人にお願いしてもいいかな」
はぁ?!中学生に危険な未知の現場を調査させんの?!二人とも何の訓練もしてない普通の中学生よ!!
あ!このために作戦会議に参加させたのか!!
「…中学生にこんなお願いをするのは、酷なのは分かってる。でも、現状手詰まりなんだ…。
もちろん、俺たちも可能な限りサポートする。座敷童子の力で運気を上げて、蛭浜が目々連の力で二人の周囲を見守る。だから…」
「いいですよ」
二つ返事で応えるポアちゃん。
「みなさんのことは信用出来ると思いますし、何より、よっぴーが一緒ならいいかなって。
あ、勝手に承諾しちゃってゴメンね」
「…あぁ、いや別に僕もいいけど…」
そりゃ、こんな可愛い同級生に顔を赤らめながら頼られたら、断らないわな!!
いつの間に、これほどの信頼を得たのやら…。
会議が終わる頃には、日はすっかり落ちていた。
まだ先輩たちは、細かい打ち合わせをしている。ポアちゃんもしばらくはこの隠れ家で暮らすことになるらしい。
小雨がパラつくベランダ。じめっとした空気の中、私はコーラ片手に紫煙を
湿気った土の匂いに、タバコの匂いが混じって気持ち悪い…。コーラを喉に流し込むと、ぬるさが不快でむせてしまった。
「横、座っていい?」
エビちゃんが窓から顔を出す。
黙って横にズレると、少し顔をしかめて、腰かけた。
「体力落ちるから、本数減らすんじゃなかったの?
昔はタバコ嫌いだったんでしょ?」
「まぁ、慣れるのも仕事なんで」
夜の街を見つめながら、ぼんやり応える。
星が無くても、東京の夜は明るい。
「頼りにしてるんだからね」
「……は?」
顔をあげると、エビちゃんは少し哀しそうな顔をしていた。
「令ちゃんが私たちの中では一番の武闘派なんだから、いざってときには、あなたが頼りなのよ」
あぁ、そうか。
残ったコーラをぐっと飲み干すと、糖分が頭に行き渡る気がした。
「紅一点の
まだまだ残っていたタバコをもみ消して、自室へ向かう。今日はもう寝よう。きっとそれが私の仕事だ。
「ごめん。ありがとね」
部屋の中からベランダのエビちゃんに、この呟きは聴こえたのかどうか。ただ彼は窓越しに優しいウインクを返してくれた。
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