2-5.part.R:今は杞憂におわれ

「ただい……ま」


 慌てて帰ってきた私は玄関で少し冷静になった。

 もし、前回のように眠り続けていたら、どうしよう。と不安だったけれど、もし何ともないのなら、心配しすぎで、芳生に鬱陶しがられてしまうかも?でも、何事もなければそれに越したことはないし…。

 逸る心を抑えていると、いろんなことを悶々と考えてしまう。

 一度小さく深呼吸してから、居間の扉を開けた。


「ちょ…ちょっとストップ!ストップ!」

「いいじゃん…ボクは芳生ヨッピーのこと…好きだぜ★」

「キャー!美形女装男×地味な優男よぉー!!」

 私の想いとは裏腹に、黄色い声に出迎えられた。


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 さて、問題です!

 弟分を心配して、急いで家に帰ったら、美少女とポッキーゲームをしてたとき、どうするのが正解でしょう。




 え?私ならどうするかって?


 二人の隣でアホ顔して騒ぐ変わり者の友人エビちゃんを指ポッキンゲームの生贄に、私もみんなの輪に入る!


「あら、令ちゃんおかえり…。え、待ってなになに?待って待って待って指握ってどぉするのおぉぇぇえぇぇ、アァー…ッ…ぃだあぁぁあぁぁ…」


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「で?この子誰?」

 何だか、浮気された彼女の台詞みたいになってしまった。


「芳生くんのクラスメートの鈴木ポアちゃん。

 今日、転校してきたんだけど、彼も“部屋”に喚ばれちゃったみたいだから、ちょっと連れてきてみたのよ」

 エビちゃんの言葉を聞きながらも、彼女から目を離せない。


「噂の令ちゃんね?」

 私の値踏みするみたいなねちっこい視線を気にしない様子で、美少女は立ち上がった。日本人離れして端正な顔立ちに、スッと長い手足。

 そりゃ、こんな子と仲良くなったら、私だって、イチャイチャするわ!


「鈴木ポアです!芳生くんのクラスメートで」

 彼女は彼の腕にしがみつくと、ニコッと笑った。

「運命の相手でーす☆」

 ヒィッと声をあげて、飛び上がる芳生。

「何の話?!」

「えー?私たち曲がり角で出会ったじゃなぁい?

 あぁいうのを運命って、言うんでしょ?」


 もう何だか、むしゃくしゃしてきて、私は友人エビちゃんを八つ当たりに蹴飛ばしてから、黙って部屋に戻った。


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 無事なのは、良かったけど…。

「何かモヤモヤするわぁ…」

 ベッドに仰向けに倒れ込んでから、まだシャワーを浴びてなかったことを思い出した。シーツを汚したくないから、入浴前にはベッドに座らないようにしているのに…。

 身体を起こしたとき、コンコンコンと三回軽くノックが鳴った。

「ごめんね、令ちゃんさん。

 ヨッピー、あー、芳生くんのお話どおり、かっこいい女の人だから、ついついイジワルしたくなっちゃって…」


「もういいよー」

 私も大人だからね。


 ため息混じりに応えると、おずおず扉が開く。


「芳生と仲良くしてんでしょ?今後も仲良くしてやってよ」

 吐き捨てるようにそう言った私に、彼女は恐る恐る近づいてきて、耳元に囁くように言った。

「ボクは男だよ?」

 驚いて、バッと身体を起こすと、彼女もとい彼は少し顔を赤らめて、モジモジしながら、繰り返す。

「男だから、恋愛関係にはならないよ。ヨッピーは男が恋愛対象じゃないし」

 そこまで言うと、くるっと振り返って部屋を出ていった。

「作戦会議するらしいから、また居間で待ってるね」


 私は返事もせずに、彼の後ろ姿を見送る。


 …囁きかけたとき、どうして彼は私の首を触ったんだろう。さりげなく。何かを確かめるように。


 そういう文化の国もあるのかもしれないけど…。どうして、私のなんか…。


 ぞわっとした肌を撫でて、私はしばらく扉を見つめていた。

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