2-4.明るいと見えない
「…ちょっと…似てるよな」
何台もの原付が乱雑に乗り捨てられたように横たわっている道路を見て、山野は呟く。
「“願いの部屋”の犠牲者に…っスか?」
原付の側にしゃがみこんでいた令は顔をあげた。
目の前を警察官たちが慌ただしく行き交う…。
二人は昨夜の現場を訪れていた。会社では対処しきれず、警察に任せることになったらしい。
何といっても、関係者は令たち3人を覗いて行方不明なのだ。彼らの会社のような
そのうえ、現場はあまりに異様だった。
バイクともに道に散らばるのは、脱ぎ捨てられた衣服。それも、脱ぎ捨てられていたというよりは、突然、“着用者が消えた”という方が自然だった。
ひとつはバイクにまたがった姿で、ひとつは倒れた姿で、ひとつは駆け出すような姿で…。下着も靴も靴下も着ていたときのままであろう状態だった。
まるで、ただ人間だけが煙にでもなって突然消えたように…。
「…“部屋”に
令は立ち上がって、デニムの尻ポケットを払う。
「でも、それは変っスよ」
もし、“部屋”に喚ばれた人間だったなら、そもそも芳生を追う必要はない。
「あぁ、だが、アイツらが喚ばれて消えた可能性も無いわけじゃないだろ」
警官たちを目で追いながら、山野は指を一本立てた。
「ひとつは、俺たちに逃げられた後に、喚ばれた。もしくは、既に喚ばれていたけれど、本人たちは気づいていなかった」
「なるほど…。それなら、私らのことを追いかけるのも変じゃないっスね」
令の言葉に黙って頷くと、考えこむように視線を下げて、もう一本指を立てる。
「あるいは、喚ばれた人間を集めている組織がある」
「組織…。
そうなら、消えちゃうほどの願いをしちゃうのは、おかしいっス」
令は再びしゃがみこんで、何かをつまみ上げる。鮮やかなBB弾。昨日彼らが撃ったものだろう。
「アイツらは組織の末端なら、代償について知らなくても自然じゃないか?」
「でも、持っていた武器がモデルガンだなんて、違和感ありありっスよ」
BB弾を空にかざしていた令は、ため息をこぼす。
「喚ばれた人間が手元にあるのなら、もっと良い道具を準備出来ますもん」
「そうだな」
山野は手摺に両手を置いて、肩を落とすように大きく息を吐いた。
「そもそも、喚ばれた代償で身体を失ったのだとしても、妙だ。
あのカーチェイスの後、まだ“部屋”は開かれていない…。
喚ばれている芳生くんがあれからまだ“部屋”に行っていない…。それに…」
「は?!ちょっと待って!
芳生が行ってないからって、“部屋”が開かれてないとは限らないんじゃ」
そのとき、令の携帯端末が鳴り響いた。
「ちっ…だあぁー…、もうっ!はいっ、里見ですぅっ!!
なんだ、
そんな報告のためにわざわざ電話なんて……はぁっ?!
……“部屋”が開いたってこと?」
パッと振り返ると、山野は雲ひとつ無い空を見上げていた。まるで星でも探すように。
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