2-2.part.Y:トーストにはお味噌汁と

「しばらくは、この隠れ家から、学校に通ってもらうわけだけど――」

「もー、先輩!今度からお味噌汁は白味噌にしてくれるって言ってたのに、また赤だしやん!」

 お味噌汁をすすりながら、口を開いた山野さんに向かって、空になったお椀を乱暴に机に置いた令ちゃんが、関西弁で喰ってかかった。

「まだ前に買ったのが、残ってたんだよ。もう少しで無くなるから、我慢しろ」

「えぇ~!しょっぱいの飽きたんスけど!白味噌がいいぃ~。九州の麦味噌でも可ぁ~」

 令ちゃんみたいに駄々をこねる気はないけど、僕も麦味噌が好き。

「美味しいよねー!大学のとき、同級生に作ってもらって、ハマっちゃったよー」

 振り向くと、そう言いつつも、赤だしとご飯をおかわりする令ちゃん。

「朝からトレーニングしてるから、お腹減るんよー!」

 そうは言っても、ご飯は三杯目な気がする。

「さっきの話、続けてもいい?」

 ため息をつく山野さんは、また困ったさんの眉毛になっていた。

 ******************************

「…芳生くんがどのタイミングで“部屋”にばれるか分からない現状では、二十四時間警護するのが理想なんだけど、ちょっと問題が起きた。


 昨日、俺らを追いかけてきた連中が消えた」


 昨夜、僕を狙って、襲撃してきた人たち。ヤクザじゃないけど、ただの不良にしては、いろいろと武器が多かった気がするし、そもそもどこから情報を得てたのかも謎だった。

「あいつらは会社の方で、調査する手筈になっていたんだが、昨夜、調査組が現場に行ったら、ひとりも残ってなかったらしい」

「逃げられたってことスか?」

「……いや、分からん。令の幻覚をあんなまともに喰らって、そんなすぐに復活するハズないんだが。

 とにかく、そのせいで、俺らはもう一度現場に行かなきゃならなくなった」

「はぁ?!」

 飲み干したグラスをガーンと机に叩きつけて、立ち上がる。中に入っていた生卵はもう令ちゃんのお腹の中だ。

「じゃあ、芳生の警護は?!」

「…蛭浜えびはま愛流める。アイツが俺らの補佐になった。英語教員として、潜入するらしい」

 令ちゃんはピタッと食事の手を止めて、顔をしかめた。

「…うへぇ、あの覗き見変態オカマ野郎…?」

 いかにも「うへぇ」という顔をして、頭を抱える。

 待って!そんな人が警護するの?撃退される側ではなくて……?

「ちゃんと優秀な社員だから、心配すんなって!」

 余程僕が不安な顔を見えたのか、山野さんは励ますように言った。ついでくれたデザートの果物も、令ちゃんより気持ち多い気がする。

「アイツは目々連続もくもくれんだから、索敵さくてきは完璧だ。

 安心して、日常生活が送れるぞ」

 あー。目々蓮って、「障子に目あり」的な妖怪だよね。盗撮とかしてくる人だったりしません?

「……い、いや、その、まぁ、おっと、噂をしてれば、蛭浜から連絡きたぞ」

 目を泳がせていた山野さんは、振動音にワタワタと胸ポケットを探る。そして、しばらく端末を見つめた後に、少し真面目なトーンで口を開いた。

「あー…ごめん、今日はひとりで登校してもらうことになりそうだ」

「どうしたんですか?」


「……えっと何か、その。職質されてるらしい」

 満腹になった令ちゃんの小さなゲップとその謝罪が、食卓に響いた。

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