2-2.part.Y:トーストにはお味噌汁と
「しばらくは、この隠れ家から、学校に通ってもらうわけだけど――」
「もー、先輩!今度からお味噌汁は白味噌にしてくれるって言ってたのに、また赤だしやん!」
お味噌汁をすすりながら、口を開いた山野さんに向かって、空になったお椀を乱暴に机に置いた令ちゃんが、関西弁で喰ってかかった。
「まだ前に買ったのが、残ってたんだよ。もう少しで無くなるから、我慢しろ」
「えぇ~!しょっぱいの飽きたんスけど!白味噌がいいぃ~。九州の麦味噌でも可ぁ~」
令ちゃんみたいに駄々をこねる気はないけど、僕も麦味噌が好き。
「美味しいよねー!大学のとき、同級生に作ってもらって、ハマっちゃったよー」
振り向くと、そう言いつつも、赤だしとご飯をおかわりする令ちゃん。
「朝からトレーニングしてるから、お腹減るんよー!」
そうは言っても、ご飯は三杯目な気がする。
「さっきの話、続けてもいい?」
ため息をつく山野さんは、また困ったさんの眉毛になっていた。
「…芳生くんがどのタイミングで“部屋”に
昨日、俺らを追いかけてきた連中が消えた」
昨夜、僕を狙って、襲撃してきた人たち。ヤクザじゃないけど、ただの不良にしては、いろいろと武器が多かった気がするし、そもそもどこから情報を得てたのかも謎だった。
「あいつらは会社の方で、調査する手筈になっていたんだが、昨夜、調査組が現場に行ったら、ひとりも残ってなかったらしい」
「逃げられたってことスか?」
「……いや、分からん。令の幻覚をあんなまともに喰らって、そんなすぐに復活するハズないんだが。
とにかく、そのせいで、俺らはもう一度現場に行かなきゃならなくなった」
「はぁ?!」
飲み干したグラスをガーンと机に叩きつけて、立ち上がる。中に入っていた生卵はもう令ちゃんのお腹の中だ。
「じゃあ、芳生の警護は?!」
「…
令ちゃんはピタッと食事の手を止めて、顔をしかめた。
「…うへぇ、あの覗き見変態オカマ野郎…?」
いかにも「うへぇ」という顔をして、頭を抱える。
待って!そんな人が警護するの?撃退される側ではなくて……?
「ちゃんと優秀な社員だから、心配すんなって!」
余程僕が不安な顔を見えたのか、山野さんは励ますように言った。ついでくれたデザートの果物も、令ちゃんより気持ち多い気がする。
「アイツは
安心して、日常生活が送れるぞ」
あー。目々蓮って、「障子に目あり」的な妖怪だよね。盗撮とかしてくる人だったりしません?
「……い、いや、その、まぁ、おっと、噂をしてれば、蛭浜から連絡きたぞ」
目を泳がせていた山野さんは、振動音にワタワタと胸ポケットを探る。そして、しばらく端末を見つめた後に、少し真面目なトーンで口を開いた。
「あー…ごめん、今日はひとりで登校してもらうことになりそうだ」
「どうしたんですか?」
「……えっと何か、その。職質されてるらしい」
満腹になった令ちゃんの小さなゲップとその謝罪が、食卓に響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます