1-6. part.Y:幼馴染みのお姉さんが突然××××してきたんだけど

 令ちゃんが煙を吐き出すと、すぐに山野さんは僕にヘルメットを被せた。大袈裟だなぁって思ったけれど、必要だった。何せ、そこからが急展開だった。


 まず、最初に追い付いてきたひとりが、こちらに銃口を向けてきた。と同時に、令ちゃんがぶちギレた。


「ウチの子に、何物騒なもん向けてくれとんじゃあああ」

 叫ぶと同時に、首がびゅーんと飛ぶように伸びていって、バイクもろとも、男の人を丸飲みにした。


 首が伸びて、人を丸呑みにした。

 ……。僕、令ちゃんの首が伸びることも、人を呑めることも知らなかったんだけど。えぇ……。


 ねぇ。幼馴染みのお姉さんが、突然、首を伸ばして、人間をバイクごと呑み込んだのを見せられた僕の気持ち分かる?

 ラノベみたいな経験したいとは思っていたけれど、別にこういうのは望んでない。


 その後も、まるでフィクションのような有り様だった。

 追手の何人かは鞭のような首に吹き飛ばされ、何人かは締め上げられた。何人かは海藻のように黒髪をなびかせる生首に追い回され、噛みつかれ、悪態をつかれた。以前からそうだけど、令ちゃんって、やっぱり口が悪い。聴いたこともない罵詈雑言を流れるように吐いていた。


 とにかく、令ちゃんの独壇場だったことは間違いない。


 ******************************

 気づくと、道路には泡を吹いた男たちが腰を抜かして転がっていた。


「ふぅー…スッキリしたぁ…」

 車を路肩に停めると、さっぱりした顔で令は運転席から降りた。


「あれ?芳生、ドン引きじゃん!先輩、ちょっとは説明してくれたんじゃないの?!」


 呆然としたまま、山野さんの方を見上げると、鼻の頭を掻く彼の目が泳いでいる。それを見た彼女は呆れた顔でため息をつくと、僕のことをまっすぐ見つめた。しゅっと切れ長の目が嬉しそうにくりくり輝く。


「…あんなぁ。私なぁ、ろくろ首やねん」


 何でやねん!

 ――って、ホントの関西人なら、ここで言うのかなぁって考える僕の前髪を、風がぴゅうっとそよがせていく。


 今日は星が一段と綺麗だ…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る