1-6. 甘い煙の爆走大蛇

 それは“願いの部屋”と同じく、都内で囁かれる不思議な話。


 暗い夜道が怖くても、慌てて運転しちゃいけない。甘い煙を撒き散らす酔った蛇が寄ってくる。

 爆走大蛇バクソウオロチに狙われる。


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「なんだよ、“爆走大蛇バクソウオロチ”って」「名前があんまり怖くなさそう」

 みんながバカにする中、男は青ざめた顔で首を振った。

「笑いごとじゃねぇんだよ。一晩追いかけ回されたらわかる。もうバイクも車も乗りたくない」


 呆れた他の奴らが笑っている中、ひとりが何気なく、シガーケースを取り出した。すると突然、飛び上がって、悲鳴のような声をあげる。

「タバコは……吸わないでくれ!!」

 うずくまって、ぶるぶると小刻みにそいつの姿に、その場は静まりかえった…。


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 甘い煙は、爆走大蛇バクソウオロチの来る合図。爆音響かせ、煙吐き、道を鞭打ち、追ってくる。

 煙に巻かれちゃ、もうおしまい。気を失うまで、帰れない。


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 何なんだよ…これは…。

 人をひとり拐うだけで一攫千金が手に入る簡単な仕事じゃなかったのかよ…。


 想像を絶する有り様に、気づくと俺は単車も仲間も見捨てて、身ひとつで逃げ出していた。

 丸腰の三人組に、モデルガンで武装した十数名が負けるだなんて、誰が想像しただろう。


 まず、アイツらの車を見つけて、すぐに追いついたひとりが迷わずモデルガンを乱射した。きっとあれが不味かったんだ。


 運転席の女の頭が。女の頭がぐりんっと急にこちらを向いたかと思ったら、乱射したヤツを単車ごと丸飲みにした。

 身体はオープンカーで運転したまま、首だけがびゅんと伸びて、襲いかかったんだ。


 あまりに非現実過ぎてた。

 俺は他の仲間と一緒に車の後を走りながら、『爆走大蛇は黒髪の女の頭をしてる』って、飲み屋の男が震えながら言っていたことを思い出していた。


 ――そのときには、もう俺たちは煙に囲まれていた。

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