1-5.part.Y:関西弁は関係ない

 令ちゃんは一度、全関西人に謝っておいた方がいい…。だって、あんなにキャラの濃いおばさんは、きっと関西にもいないもの…。

 ハンドルを握る令ちゃんは前方から目を離さずに、愉しそうに声をあげる。

「えぇー?何でよぉー」

 真っ赤に縁取られた口から覗く白い歯がいたずらっぽく光った。


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 派手な脱出劇の後、僕らはまた車に乗っていた。“放課後強制ドライブ”のときとはうってかわって、今度は令ちゃんが運転するオープンカー!オープンカーなんて、生まれて初めて乗ったけど、凄い!

 まず、意外と地面が近い!車に乗っているのに、視点が人の腰の位置なのは、凄く新鮮だった。

 それだからか、凄く注目される。周りの視線がとても気になる…!!車体から生身が剥き出しなのもあるのかな?赤信号で止まっているときなんて、歩行者との距離が近くて、僕はドキドキしてしまう。

 でも、令ちゃんはあまり気にならないようで、じぃっと羨望の眼差しを向けてくる子どもたちにも愛想よく手を振る。今さっきも歩道で棒立ちになっている男の子へウインクを飛ばしていた。



「関西弁は大したもんやったやろ?」

 赤信号で止まると、得意げに振り返った。金髪ロングのウィッグがふわっとなびく。

「大学は関西やったからな!関西弁はお手のものやで」

「自信持ちすぎだろ」

 まだサングラスをしたままの山野さんがチャチャをいれた。グラサン気に入ったのかな?

「は?関西人の同級生と四年間切磋琢磨したんやから、私も関西弁うつって、ペラペラなんですぅ~」

 令ちゃーん、青になってるよ……。

 肩を小突くと、後続車に謝り、慌てて発車した。

「大学生なんて関西出身じゃない人も、多いんだから、関西の大学行ったくらいじゃ、関西弁話せるようになるわけない」

 なおも続ける山野さん。関西に嫌な思い出でもあるのかな。

 でも、どこかで聴いた、“語学留学したら、インド人ばかりで、イギリスに行ったのに、インド訛りの英語になった”って人の話を思い出して、僕は彼の話に少し納得してしまった。

「……私はちゃんと関西弁しゃべれるもーん」

 少しむくれた令ちゃんは、ガチャガチャっとギアを触って、びゅうっと加速した。藍色のオープンカーは、滑るように闇夜を走り抜ける。


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「で?これからどうするの?隠れ家バレちゃって」

 アパートからだいぶん離れて、あまり人気の無い道を走っていた。対向車もほとんどなく、どことなくもの悲しい。車内の妙な気まずさには敵わないけど。

「心配すんな」

 まだ少し不貞腐れている令ちゃんに代わって、山野さんが口を開いた。

「他にも隠れ家はあるさ。でも――」

 後方に小さなベッドライトがいくつか見える。数台のバイク?

「まっすぐ向かうワケにはいかなそうだな」

 あっという間にエンジン音が近づいてきた…!

「えー!追いついて来たで!どうすんの?」

「芳生くんも関西弁になっとるやん」


「ふふんっ。そろそろ私の出番やな?」

 姿勢を正した令ちゃん。金髪ウィッグを脱ぎ、黒い髪をふわっとなびかせた。まだ、関西弁を使ってる。もうムキになってるみたいだ。

 でも、真っ赤な口紅の目立つの横顔が何故だかカッコよくて、少し見惚れてしまいそうになった。

「私がどうして、今まで現場に出て来なかったのか。どうして新人なのに今回みたいな大きい案件をもらえたのか。実感させたるし、目ん玉ほじくり返して、よぉーく見ときや」

 いつの間にか見慣れない大きな葉巻を咥えた彼女は、雲みたいな白く濃い煙をぶわぁっと吐き出した。

「イッツ、ショータイム、や!」

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