十四、相馬太郎

 真っ暗で足下が覚束ない中、僕は急ぎ足で、「会」のメンバーが集まり焚き火をしている場所へ進んでいく。

 みんなの話し声が聞こえてきた。


「引きこもってるときは、まるで魚眼レンズを通して見ているような世界のなかで暮らしていました。外に出たくても、出られない。毎日毎日、朝日が昇ることに絶望を感じるんです」


 あれは、あかりさんの声だ。


「会社の上司は、一癖二癖持ってるのが当たり前。派遣社員の私には、毎日のように、きつい嫌味が飛んできます。若いときは、むしろその若さで乗り切っていたのかもしれない。こんな中年が、引きこもりなんてだらしないですよね。甘えだと思われても、仕方ない」


「どうだろう。中年とか、関係ないですよ。むしろ、周りが甘えじゃ無いってことを理解しなければならない」


 これは、れおさんの声。


 焚き火の明かりが見え始めてきた。みんなの姿も、少しずつ見えてくる。


「れおさーん。尚也さんがいませーん」


 僕は、大声で叫んだ。

 れおさんは、僕の声に気づくと、僕に一瞥をくれて、しかしまた「会」の会話の中に戻っていく。

 れおさんの反応に、違和感を覚えた。拍子抜けをした、といったほうが正しいかもしれない。え、なんで、もっと驚かないの。


「私も、ずっとベットに寝たきりだったとき、なんでこんな私を生かしておくんだって、両親に思いました。外で自由に動き回れて、好きなことが出来るのを想像して、こんな自分、生きてても意味無いなって」


 今度は、日菜さんが、自身の経験について語っている。


 焚き火のある場所にたどり着いた僕は、着くや否や声高に叫んだ。


「あの、尚也さんがいません」


 「会」のメンバーの反応をみて、またもや僕は拍子抜けする。れおさん、あかりさん、日菜さんの三人とも、僕のほうを見て、優しく微笑みかけるだけだ。


「あの、聞いてるんですか?」


 僕は、つい語気を荒げて、メンバーに対しこう言った。


「まあ、ちょっと座りなよ」


 れおさんが、平然とした顔で僕を座るように促す。


「はあ?」


 僕は、頭のなかにハテナがたくさん浮いていた。

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