十三、かえるのぴょんた

 おいらは、ぴょんた。蛙のジャーナリストだ。


 今、おいらの一寸先には、バケモノクサと呼ばれている、大きな大きな葉っぱをもつ草がそびえ立っている。不気味なほど太い、薄緑の茎。ここまで近くに来て見ると、もはや暴力的な観がある。


 おいらは、このバケモノクサの秘密を知っている。

 蛙の身長では気づくのが難しいが、このバケモノクサの根元を越えて、さらに奥のほうへ進むと、そこは崖になっている。崖から落ちれば、海へ真っ逆さまに落ちる。

「バケモノクサの根元へ行くと死ぬ」というのは迷信だ。バケモノクサの根元へ行ったところで、死にはしない。ただ、それよりも先へと進むと、そこは崖の淵になっているため、不注意で転げ落ちる場合があるというだけの話だ。


 日々情報を集め、それで生計を立てているジャーナリストにとって、ここまでの情報を手に入れることができたのは、かなりの収穫だ。

 根元へ行って、それより先に進むことなく戻ってこよう。そうすれば、この村で一躍有名になれる。長老の蛙に、勲章をもらえる可能性だってある。わくわくが止まらない。


 バケモノクサの周辺には、人間が置いたと思われる花束がいくつも転がっている。

 それは、崖から海に飛び降りて自殺した人たちに、遺族が置いていったものだ。

 この場所は、人間の自殺の名所になっている。


 さあ、さっそく、根元まで行こう。

 ぴょんたは、足を一歩、二歩と踏み出して行き、バケモノクサの根元までやってきた。ほら見ろ。転げ落ちることなんてない。

 と、そう思った矢先、彼の体をものすごい勢いで引いてくる不思議な力に、ぴょんたは気づいた。

 それは、まるで磁力のような、抗うことのできない、大きな力だった。

 体が、自然と崖の淵まで引きずり出される。次の瞬間には、ぴょんたは崖から落ちていた。


 必死で足掻くも、もう遅い。下に広がる景色は、薄暗い青色の海だ。


「なんてこった。落ちるはずなんて、ないのに……」


 ぴょんたが困惑する最中、大きな口を開けた海は、瞬く間に彼を飲み込んだ。



 自殺者が後を絶たないこの崖では、崖の淵周辺において、呪いのような引力が働いていた。その引力は、バケモノクサが生える場所まで、力が届く。

 引力に引き寄せられると、崖から転げ落ちてしまうのであった。

 ただし、その引力はごく微少なもので、体の小さな「アマガエル」には効くが、「ガマガエル」のような体の大きな蛙には効かないという特徴があった。

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