八、武蔵日菜

 れおさんが、奥さんと若かれし頃にあったトラブルについて話し終えた後、場は恋愛についての話になった。


 れおさんは、奥さんとの付き合いの前に、数ヶ月程度の短い恋愛を経験したこともあったらしい。それも、れおさんが高校生だった時のエピソードだ。


 高校で、二回もの恋愛を経験する。私には、想像もできない話だった。

 見た目が悪いわけではないと思う。向かう先々で、自分の容姿について褒められることは多かった。

 ただ、私には、皆と同じような青春を過ごせない事情があった。


「太郎くんは、恋愛の経験は?」


 尚也さんが、太郎くんに話を振った。


「僕、まだ無いです。彼女とか、全然できなくて……」


 太郎くんが返事をする。私は、太郎くんに視線だけ向けて、話を黙って聞いていた。

 人と話をするのが苦手な私は、緊張するというのもあるが、人と何を話せばいいのかわからない、というのも大きい。

 自分が喋るよりも、聞き手に回ったほうが、いつも楽だった。

 そんな自分が、私は嫌いだった。けれど、変えようと思ったところで、なかなか変えられない。今日だって、私はほとんど発言していない。

 いつもいつも、人と話をするたびに、気が効いた会話ができない自分に不甲斐なさを覚えていた。


 こんな自分を、ここにいる「会」の参加者たちは、どのように思っているのだろうか。

 どうか、否定的に思っていませんように。心のなかで、そっと手を合わせた。

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