九、かえるのかっくん
「かっくん、またバケモノクサのところで蛙が死んだって」
その声で、かっくんは目を覚ました。
気持ち良く寝ていたところを起こされた俺は、少々機嫌が悪くなり、「あっそ。そんなのどうでもいいよ」と冷酷な言葉を吐いた。
かっくんの台詞に、かえるのいっちゃんは目くじらを立てた。
「かっくん、酷い! 仲間が死んじゃったのに、なんでそんなこと言えるの」
「悪かったよ。本気じゃない」
かっくんは、素直に謝った。
バケモノクサの恐ろしい話は、俺が生まれたときから、ここらの蛙たちの間で共有されていた。
バケモノクサとは、その名の通り、化け物さながらの大きな草、という意味だ。ここらに生える草とは比べものにならないほど、つまり、ここらに生えるには甚だ不自然な大きさの葉をもつ草だ。
あれほどまでの大きさの草が、ここらで自然に生えてくるというのはあり得ない。あれは、ここよりももっと暑い、南の国の植物だと長老の蛙が言っていた。その長老蛙が言うには、人間が不謹慎にも、観賞用に育てていた植物をあそこに植えたとしか考えられないようだ。
そのバケモノクサは、この川を向こう岸に渡って、幾分か進んだところに生えている。キャンプ場がある場所とは反対方向だ。
昔から、バケモノクサの根元には絶対に行くなと教えられている。バケモノクサの根元に足を踏み入れた蛙は、死んでしまうのだ。唐突に、姿を消すのだという。
だが、その理由はいまだにわかっていない。恐ろしい魔物が住んでいるのかもしれない。あるいは、蛙取りのような仕掛けが施してあるのかもしれない。もし後者なら、俺は人間を憎むだろう。
ただ、人間が蛙を捕る、というのも不自然な話だ。一体、何のために蛙を捕るというのか。
それに、バケモノクサの周りには、花束がいくつも置いてある。人間が置いた物だろう。わざわざ、蛙のために献花なんか置くはずはないから、きっと、バケモノクサの根元では、人間も死んでしまうのだろう。
そんな恐ろしいバケモノクサだが、ときどき、蛙界のジャーナリストがあそこに足を踏み入れることがある。一体なぜ、と、毎度僕は思う。いくら仕事とはいえ、完全な自殺行為だ。
不謹慎であるとはわかっていながら、バケモノクサの根元に行き息を引き取った蛙を、愚かだと罵りたくなる。
「あ、かっくん、いっちゃん」
向こうから、かえるのひーちゃんが、葉っぱの上を器用に飛び跳ねながらやってきた。
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