三、古夏れお
星が降ってくる、とはこのような情景のことを言うのだろう。
辺りはめっきり暗くなり、空を見上げれば、流れ星でも流れるんじゃないかと思うほど、都会では考えられない美しい星空が広がっていた。
時折吹き抜ける風が、火照った体の熱を冷ましていく。心地よい秋の風だった。
足場を調整しようと、あるいは、特に意味もなく足を動かすと、芝生の草がわさわさ音をたてる。
面白くなって、わざと音をたててみた。
何をくだらないことをやっているのか。我に返り、心のなかでおどけてみせた。
「いい感じで燃えてますね」
目の前で煌々と燃え盛る焚き火に一瞥をくれ、「会」の参加者の顔をぐるりと見渡す。
皆、緊張がほぐれ、和やかな表情になっている。「会」の主催者の僕としては、嬉しい限りだ。
この、「生きづらい人のためのキャンプ会」は、新宿にある精神保健福祉センターが企画する、通所者のための交流会だ。
僕は普段、その施設でソーシャルワーカーとして働いているが、今回は、この「会」の主催者に選ばれた。
「会」には、三十歳の僕と、十九歳の相馬太郎くん、二十五歳の新井尚也くん、二十歳の武蔵日菜さん、三十五歳の川端あかりさんの五人が参加している。
テントは、男性用と女性用の、二つを用意してある。昼間に、皆で協力して組み立てた。
「この、火花が爆ぜるパチパチって音、潔くて心地よいですね」
太郎くんが、社交的な笑みを浮かべながら、僕のほうを向きコメントしてきた。
「そうだね。何だか、日常の焦燥感から逃れられるような感じがする」
僕は答えた。
「私、炎って怖いイメージあったけど、こうやって皆でお話しながら眺めてると、すごく優しい存在に思えてくる」
あかりさんも、彼女なりの所感を述べ、会話をうまく紡いでいく。
「このサイダーうめぇ。これ、どこの銘柄?」
尚也くんは、僕が持参したサイダーを飲んでくれている。
「それは、キランビバレッジの」
僕は、サイダーの銘柄についてコメントする。
皆がテンポよく会話する中、日菜さんは、話の聞き手にまわっている。彼女は、上品な笑みを顔に貼り付けて、こくり、こくりと小さく頷く。
話に乗れることだけが、必ずしも良いことではない。彼女のような人も、同等な魅力があるのだ。
「ケロケロ」「ケロケロ」
何処からか、蛙の鳴き声が響いてくる。湿度が高いのかな? 雨が降る様子もないのに。
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