二、相馬太郎
辺りが暗くなってきた。
目の前に広がる林は、昼間こそ青々としていて清々しさを感じさせたものの、今は四方八方へと伸びる枝が、おぞましい何かに思えてくるから不思議だ。
折りたたみ式のキャンプ用チェアーに、深々と腰をかけ直す。
ふう。思わずため息がこぼれる。
この非日常的な空間に、僕はたいぶ慣れてきたようだ。
僕は今、千葉県にある、大房岬のキャンプ場に来ている。
僕の座る椅子の前には、バーベキュー用の焚き火台が置いてある。中には、真っ黒な薪を立ててある。
焚き火台を囲う形で、僕の他に、四人の男女が椅子を並べて座っている。彼ら彼女らは、僕と同様に、この「会」に集まった人たちだ。
「太郎くん、そろそろ火つけて貰っていいかな?」
この「会」の主催者の古夏れおさんが、僕にライターを手渡してきた。
「はい。わかりました」
僕は、れおさんからライターを受け取り、手に持っていた新聞を丸め、火を付け、焚き火台の中に投げ入れた。
三角柱の形に器用に立っている薪に、火が乗り移っていく。その様子に、ある種の爽やかさを感じた。
先程、「会」のメンバー間で、火を点ける人をジャンケンで決めることになり、その結果、僕が火を点けることになった。
現在大学二年生の僕は、子供のように大げさに喜びもしなかったし、かといって全く喜ばないわけでもなかった。
そこのさじ加減は、生きていく中で獲得してきた。他の人たちのやり方をみて、学んでいく。「会話」のスキルとは、そのようにして培われていくものだ。
どこからか、虫の鳴き声が聞こえる。その中に、蛙の鳴き声も混じっているのに気づいた。
雨が降るのかな......?
雲行きを確認しようと思い、空を見上げた。空には雲ひとつなく、秋の星々が空いっぱいに咲いていた。
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