第41話 罪の所在
「ご飯、置いてますから」
家に帰ると、ミユが待っていた。日付は既に変わっており、学校から戦場に出発してから丁度一日が経過していた。
「・・・うん」
食卓に並べられたご飯はどれも美味しそうだが、今は食欲など皆無だった。努めて普通を装うことにする。
そう、これまでと同じように。
シャワーに入りながら、何度も呼吸を整える。
自らに言い聞かせる。僕は人殺しだ。してきたことの罪は、今回で変化したってことは決してない。
ただ、知っている人を殺した。それだけだ。涙は止まらず、罪悪感に潰れそうだが、それを押し殺さなければならない。
そうじゃないと、そうでなければ、シズに顔向けなど出来ない。
シズをこれ以上、傷付ける訳にはいかない。今一番に責任、罪悪感、自らに対する嫌悪感を抱いているのはシズだろう。
僕が悲しんだら、さらにシズは重しを背負うことになるだろう。それだけはダメだ。僕は・・・。
僕は、誰を殺しても平気でなければならない。
兵士として、当たり前のことが僕には身についていない。シズに、僕がこの思念術を使って人を殺したんだ、って誇る程にならなければならない。
シズに・・・あぁ、ダメだ。
思考がぐちゃぐちゃになって、何を考えているのか分からなくなる。
そうだ、考えなければ良いんだ。何も考えないように集中する。
目を閉じ、ただシャワーに打たれる。大丈夫だ、簡単な話だ。何も考えるな。
どうやら、僕が浴室に入っている間、シズは寝てしまったようだ。
「疲れた、といってベッドに入りましたよ」
「うん。分かった」
食卓に並べられている、色とりどりの料理をお皿に盛る。
どれも美味しいはずなのに味を感じない。
「・・・何かあったのですね」
ミユが僕の顔をじっと見つめる。
「いや、ないよ。ただ・・・戦ってきただけだよ」
「本当ですか?」
心配そうに聞いてくるミユに苛立ちを覚える。
「・・・本当だって言ってるだろ」
思わず放った言葉は殺気立っていた。
「ごめん。僕が悪かった」
客観的に見て、まずかったと自覚し、直ぐに謝る。
「いいえ、私の方こそ。本当に申し訳ありませんでした」
そう言って深々と頭を下げるミユ。声が震えているのが分かる。何も罪がないミユを怖がらせてしまったようだ。
「言うよ。ミユの言う通りだ。何かがあったんだ」
ミユに出来事を話す。練習だ。
第三者であるかのように話す。
威力が凄まじく、呆気なく共和国軍は撤退したこと。
そして、「僕」が放った思念術によって元同僚を殺し、特務聖剣部隊の戦力を下げることに成功したこと。
冷静に。何も考えずに。事実を伝える。
「そうですか」
ミユが無表情で僕の話を聞く。
「ネオ様は凄いですね」
最後まで話し終わると、そうミユは言った。
「何が・・・あぁ。そうだよ、今回は僕のお陰で共和国を止めることが出来たに違いない」
「それもそうですが。シズさんを守る為に、そこまで嘘をつけることです」
ミユが真っ直ぐな目で僕を見つめる。
「大丈夫ですよ。シズさんには言わないので」
「・・・・」
「話を聞いて、ネオ様がどれだけシズさんを大切に思っているかが分かりました。だけど、それを続けるとネオ様が壊れてしまいますよ」
「大丈夫だよ。本当に、何も思ってないから」
出そうな何かを押し殺しながら、答える。
「そうですか。でも、私の前では自分を殺さなくても良いですよ」
その言葉を聞いてしまうと、押し殺せなくなった不の感情が爆発する。
あぁ、ダメだ。情けない。女の子にすがって泣き喚くこの僕が、情けない。
リビングにいる2人の陰は、喉の渇きを覚えてベッドから抜け出した少女によって視認されていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます