第42話 休日
学生となってから約一週間が経過した。念願の土日である。
学校が嫌だという訳ではない。ただ、視線を多く感じ、何もせずとも疲れてしまう。そんな監視的空間から離れることが出来るのがこの二日である。
昼過ぎに起き、朝食兼、昼食を食べる。
「シズは?」
「シズさんは散歩に行ってるらしいですよ。少し前に出られました」
台所で何やら仕込みをしているミユが答える。あの時から既に二日が経とうとしていた。
あの後、自分の感情を思うがまま爆発させ、ベッドに潜り込んだ。
そして、起床すると同時に羞恥心も顔を覗かせた。そのせいで、今でもミユの顔をしっかりと見ることが出来ないのである。
勿論、ミユは早々にしてそれに気付いていたが、そこをイジるのは違うと思い、あえて気づいていないように今は振る舞っている。
「散歩、どこに行ってるんだろうね」
「さぁ、何も行き先については言われいません」
「そうか」
「はい」
実はあの出動以来、シズと会話をしていない。そもそも起床時間がずれており、今日のように起きたらシズはおらず、いつの間にかに帰ってきて寝てしまうのである。かといって、寝ているところを叩き起こす用もなく、ただ漠然と、最近話していないな、と思うのである。
「今日はどうされます?」
昨日までは学校の公認欠席で休みであり、今日からは普通の休日。ゆっくり過ごすのも飽きてきており、正直、どこかへと出かけに行きたい。
「ミユはどこか行きたいところはある?」
「んー、特にはないです。ただ、近くにあるショッピングモールにまだ行ったことがないので、行ってみたい気はします」
「分かった。今から行こう」
恐らく、ミユが指しているのはここから徒歩数分の場所にある大型ショッピングモールの事だろう。僕も興味こそあったが、わざわざ一人で行ってみようとは思わなかった。
「分かりました。シズさんはどうします?」
シズはまだ帰ってきていない。どうせならシズと一緒に行きたいが、僕はあることを思いついた。
「鍵は持っているよね?」
「はい。忘れてないと思います」
「それなら2人で行こう」
「分かりました」
そう言って、台所から離れるミユ。結果的に二人で行くことになってしまった。勝手に僕がミユと顔を合わせるのを気まずいと思っているだけ。荒治療にはなるが、一緒に生活する以上、解決しなければならない。ミユに抱きつき、僕が泣くシーンが鮮明に脳内再生されるが、無視することに決める。
シズを待たずにショッピングモールに行きたい理由。共和国に居た頃に、シズへ何かプレゼントすることを約束していた。これまではそれどころではなく、頭の片隅でホコリを被っていたが、街に自由へ行ける身となり、時間もある。今、この機会を無くしてしまえば、もう買いに行けないかもしれない。
何を買おうか考えていると、ミユが準備を終えて玄関にやってきた。
「お待たせしました」
ミユの私服は黒いシャツに黒いズボン。本人曰く、黒い服は大概オシャレになると言い張っているのだが、違う服も着てみれば良いのにといつも思っている。
「決めた。ミユの服も買いに行こう」
ショッピングモールに行くのだ。服屋も沢山あるだろう。
「この服はもう6着あるので要らないですよ?」
不思議そうに尋ねるミユ。
「いや、そういうことじゃなくて、もう少しファッション性のあるっていうか・・」
「これは立派なファッションです!」
「あー・・・もうちょっとカラフルな? 時期に適したっていうか・・・」
国語力が著しく低下している。どう伝えれば良いのだろう。
「そう。いつも着ない服を買ってみたら?僕がお金は出すからさ」
特殊兵としての給料も毎月振り込まれており、皇帝からの支援金はかなりの額にのぼる。
これで余生をのんびり暮らせるといった程のものではないが、この歳にしては有り余るお金を持っているため、結構余裕がある。
「私、黒以外の服に関しては無知なので、それでしたらネオ様が選んでください」
「え?僕?」
「だってネオ様が提案して、ネオ様のお金じゃないですか。ネオ様が決めるのが道理というものですよ」
「・・・僕はセンスがないから」
「私もありません」
自信満々に胸を張り、宣言するミユ。
「分かった。二人で決めよう。ね?」
「・・・そこまで言うなら仕方がないですね」
何とか妥協案で許してもらえた。良かった、と胸を撫で下ろす。どうやら、僕の壊滅的な美的センスが反応した服を買うことは避けられそうだ。
ショッピングモールにつくと、一階から見て回る。
「そういえば、ネオ様はショッピングモールに何か用があったのですか?」
「あ、うん。シズにプレゼントをあげるって約束しててね」
「そうですか。良いことですが、甘やかし過ぎるのはダメですよ」
「そんなに甘やかしてないよ。むしろ、最近は親離れ、いや僕離れをしている気がする」
「遂に自分の事を親と言い始めましたか。末期ですね」
わざとらしく、ドン引きしたポーズをされる。
「ミユがいつも言うからじゃないか!」
「そうでしたっけ?」
「そうだよ!」
気付けば普通に話せていた。
久しぶりのこの心地良い空気感を楽しむ。ミユと話している時、まるで友達と話しているみたいに感じる。
だが、友達ではないことは重々理解している。ミユにとっては僕と話すことは仕事の一環であり、仕方なく話しているだろう。
この仕事上であることを感じさせない態度はプロだと思う。
そんなミユを育てた教育機関、帝密院。どんな教育をしているのかは分からないが、およそ精錬場みたいな所だろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます