第38話 招集
体育はランニング。
ランニングなら精錬場で飽きるほどしていたので、期待を裏切られたような感じがした。
授業時間内になるべく多く走らなければならない、そして下位数名にはペナルティーがあると教員からの説明をうけ、やや緊張した心持ちでスタートラインに立つ。
どのようなペナルティーかは明かされていないが、それがペナルティーである以上、決して良いものではないだろう。受けるつもりなど毛頭ない。
「それでは、スタート!」」
スタートの合図が発せられ、走り出す。剣技では特務聖剣部隊の中で特に優秀という訳ではなかったが、体力や運動神経に関してはかなりの自信があった。それこそ、特務聖剣部隊の中でもトップクラスだと自負している程である。そんな自分が負けるとは思わないが、迷わずトップスピードで走り続ける。
結局、2位と差を2倍近くつけ、ゴールインすることが出来た。ジンからお前凄いよ、と散々言われている中、全く別の事を考えていた。
数学の授業を聞きながら、考える。正直、このレベルだとは思わなかった。
確かに、僕が身を置いていた精錬場しかり、特務聖剣部隊は特殊な環境に違いない。
それを考慮しても、ここ帝国の軍人のレベルはあまりにも低すぎる。これでは共和国を倒せないのは当たり前だ。
この様子だと、前回の共和国が企てた遠征もあの谷を通らなければ成功していたかもしれない。
共和国に居た頃に考えていた帝国のレベルは、実際には完全な過大評価だった。帝国が圧倒的に有利に見えるこの戦況も一変する時が来るかもしれない。
帝国の心配をしていたら、いつの間にか授業は終わっており、時間の流れの早さに軽くショックを受ける。
尚、予習はしているものの、何をしているのかは一切分からない。足し算、引き算、掛け算、割り算が出来るだけであり、その他の数学的な内容は知識として存在しない。なにせ、兵器として生きてきたものであり、数学など全く必要なかったのである。
そして、その状況は他教科も同様である。本人はいつか出来れば良いか、などと思っており、焦りなどとは無縁の状態なのである。
休憩時間になり、次の授業で使う教科書を探していると、副担任から呼び出しがかかる。若い女の先生であり、名前はシルビーだった気がする。
「えーと、ネオ君?」
「はい。何かありました?」
どうやらかなり焦っているようだ。何かやらかしたのかと、自分の行いを振り返る。
「軍から呼び出しが来てるの。特殊兵として」
「分かりました。直ぐに向かいます」
「編入早々なのにごめんね。お願いします」
「いえいえ、仕事ですから」
非常に腰が低い先生だな。僕の思い出のなかでは命令口調で高圧的に指図するのが「先生」としてのイメージだから、違和感がある。
ま、どちらが好みかと問われれば、今のように優しい先生の方を選ぶのだが。
一旦、教室に戻りミユへ伝える。
「ミユ、軍からの呼び出しがあったから帰るね」
その言葉を聞くと、机に伏せていたミユが跳ね起き、しっかりと返事をする。
「分かりました。どうかご無事で」
「うん」
学校の校門へと走ると、車が何台か止まっており、軍制服を着た者が立っている。そのうちの一人を捕まえ、名を名乗る。
「ネオ特殊兵です」
「お疲れ様です。ネオ特殊兵はこの車両でお願いします」
指差す方向の車両には既にシズが座っており、僕の聖剣を抱えていた。
「ネオ!はい、これ」
車の中に乗り込むと、シズが聖剣を渡してくれる。
「ありがとう。よく、取りに帰る時間があったね」
聖剣は家に置いてあり、取りに帰らなければいけないなと思っていたが、シズのお陰で手間が省けた。乗り込んだ高級車は直ぐに発進し、かなりの高スピードで街中を走り抜ける。
「それで、何が起きたのですか?」
運転している、恐らく非戦闘員の軍人に尋ねる。
「共和国軍が旧セルドロス領に侵入したとの情報がありました。大規模ではありませんが、念の為に特殊兵にも招集がかかっています」
「分かりました」
あれからまだ一ヶ月弱しか経過していないが、またもや遠征を実施したのか。
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