第36話 2通りの思念術
治療法はない、と軍医さんから聞いた覚えがある。
「治した訳じゃないけど、考えなくて良いっていうか・・・」
「ちょっと待て。どういうことだ?」
「えっとね。私、思念術が2つ使えるようになった」
「2つ?」
思念術は1つ、2つという数え方が出来るものだったのか?
「2通り?っていうのかな。これまでは心臓を中心として考えていたけど、それを止めたの!」
「つまり、新しい思念術の方法を導き出したと」
「うん!だってネオが出来たっていうから私も出来るかなーって」
「分かった。軽く振るからやってみて」
「うん!」
聖剣を自分の部屋から持ってきて、構える。ミユが興味深そうに見ているなか、シズが思念術を行使する。
刀身は青に近いが、前のシズの思念術と比べると明るい色になっている。久しぶりに剣へと流れ込むシズの思念術に体が高ぶりを覚える。
「良いか?」
「うん!」
何が起こるかは予想出来ないから、漠然と何かを出すイメージで剣を軽く振る。
「・・・ん?」
確かに何かが放出された。が、それを視認することは出来
ない。
その直後、何かを放出した場所から爆発音が聞こえた。
「うわぁっ!!!!」
一番離れているミユが驚いて声を出し、体を壁際へと移動させていた。
「水蒸気?」
微かに漂っている水分をシズが手で確かめる。
「うん、水圧を感じたから水蒸気爆発だ」
「おお!凄い!」
シズが自分の思念術を自画自賛する。
「氷よりも格段にパワーアップしているな」
「これならネオも楽になるでしょ?」
「うん。そうだね」
だが、これを最大火力で行った場合、どんな光景が目の前に広がるのだろうか。
おそらく、戦場に居る敵軍を全て葬り去るくらいなら簡単にできるに違いない。至って平静に返事を返しているが、僕の背中は冷や汗を感じていた。
この思念術の恐ろしさをシズは理解しているのだろうか。
そして、これだけの威力を発揮しながら本当に身体への負担は無いのだろうか。
「それより、家で使うのは止めてください!」
「あ、はい」
「はーい。ミユはびっくりしてたもんねー」
シズが意地悪な顔を浮かべてミユを見る。
「驚きますよ!位置を少し間違えていたら床が吹き飛んでましたよ!」
「大丈夫!ネオは上手だから!」
「そういう問題じゃないです!」
はぁ、と大きく溜息をつき、最近溜息が多くなっているな、と考えてしまうミユであった。
その夜。シズが新たな思念術を身につけたことを報告書に記す。帝国としての戦力は上昇するが、監視としての責務も比例してさらに重くなった。
というかこれだけの戦力を一人で監視しろ、というのはあまりにも酷である。自分の職務が常軌を逸していることを何度も思い知らされていたが、今回も思わずにいられなかった。
「そもそも、警備って絶対必要ないでしょ」
表向きの任務を思い出す。この帝国でネオよりも剣術に優れている人は存在せず、シズに勝る思念術を使う人もいない。
それなのに警備せよってどういうことだ。しかもメインの警備対象はシズではなく、ネオ。適当にも程があるでしょ。
かくいう自分はあっさり監視対象へ本当の任務を伝えるモラル違反をしているのだが、彼女の愚痴は眠りにつくまで止まらなかった。
尚、皇帝も彼女に本当の監視が務まるとは到底思っておらず、形式的に配置しただけである。期待していることはあるものの、それは側近にも伝えていない。
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