第34話 勝敗の行方
圧倒的な勝利とは何なのだろうか。それは最小限の動作で
攻撃を無力化し、敵に勝つことである。
それを勝負前に決めていたからから、模擬剣を使わずしてかわす。
体を上手に無駄なく使えてることを実感する。あの峠から、体をまともに動かしていない。今回は丁度良いリハビリになるかもしれないな。
リズロットの剣は止まることを知らずに僕へと襲いかかる。剣の腕としては見事な部類に入るのではないだろうか。
しかし、それは止まっている物を斬ることに限定される。僕がよける度に、剣の動きを僕に合わせてくるが、剣の重心を上手く捉えていないために威力が落ちているように見える。
「クソッ!!!!」
昼休みに顔を合わせた美男子の陰は既に見当たらず、顔を醜い殺意で歪めて更に攻撃を激化させる。
特務聖剣部隊。帝国でその名前を知らない者はいない。帝国は事実上、その部隊に負けていると言っても過言ではないだろう。
先天性思念術士の存在は勿論なのだが、聖剣使いも人間以上の強さであることも知られている。その強さは、思念術を使っていない特務聖剣部隊の兵士すら帝国兵が束になっても勝てなかった、というエピソードが多く存在することから分かるだろう。
そんな部隊出身の兵士に、帝国兵士一人だけでは勝てるはずもない。
ミユは複雑な思いでネオとリズロットの戦いを見ていた。
自分が任されている人の強さを実感し嬉しく思うが、生粋の帝国兵士がまともに相手すらしてもらえないこの状況を見て喜べる帝国人は居ないだろう。
この勝負はどう考えてもネオ様に軍配が上がるだろう。そう思い、勝負ではなく観客席を観察し始める。観客席は静まり返っており、先生方も白い顔をして勝負の行く末を見ている。
中途半端に元共和国軍と知ってしまったからこのようなことになったのだろう、とミユはこっそりと溜息をつく。
元特務聖剣部隊所属と知っていれば、リズロットも決して手を出さなかったに違いない。
隠し事が出来ない監視対象。
監視対象としては最高の性質をしているが、こういう副産物があるとは想定外だ。
そんなことを考えていたら、観客席に居るある人物が目に入った。彼女はあの観客席の中で一人だけ目を瞑り、何かに集中していた。見た瞬間、思念術を行使していると気付いたが、止める気などない。
これで元特務聖剣部隊所属兵士を倒せるくらいなら共和国という名の国際テロ組織は消え失せているだろう。
いつ終わろうかな、と考えているとリズロットの剣が赤く染まり始めた。間違いなく思念術を使用している。
命の取り合いをしない勝負では思念術を使わないことが普通なのだが、勝負前に決めていなかったからルール上は問題ない。
「よけるなよッ!!」
思念術を使ったことにより心に余裕が出来たのか、笑いを浮かべながら僕を斬りにかかるリズロット。
その威力の剣を体に当ててしまえば間違いなく致命傷を負うことになるし、模擬剣で止めようとしたら模擬剣が負荷に耐えきれず、壊れてしまうだろう。
「それならもう終わらせるけど大丈夫?」
一応、終わらせる前にリズロットに尋ねてみる。勝手に終わらせてしまうと、彼から文句を言われるかもしれない。
「あ??」
凄い形相で睨んでくるリズロットを見て、またもや神経を逆撫でしてしまったと自覚する。本当に申し訳なく思うから、あとで謝っておこう。
「終わらせるね」
宣言をし、間合いから一度出る。ただ手で持っていただけの模擬剣を構え、今度は僕から間合いへと飛び込む。
間合いに入る瞬間、初速からは考えられない加速をする。体勢を低くし、反射では対応できない足下へと潜り込む。潜り込んだ瞬間、模擬剣を彼の手にぶつける。そのまま彼の背中側へと抜けると、床に聖剣が落ちる音を耳が捉えた。
「もうちょっと手加減出来なかったのですか?」
ミユと夕焼けに染まった空の下を歩く。
「うん。これ以上してしまうと相手に失礼になると思って」
実際、剣を使わずしても勝てた勝負だった。だが、素手で勝ってしまった場合。リズロットは計り知れない屈辱を受けただろう。配慮はしたつもりだった。
「あー・・・いや、そっちじゃなくて最後の一撃です。手首の粉砕骨折なんて簡単に治療出来るものじゃないですよ」
あの後、リズロットは手首を押さえて倒れ込み、再び剣を持って立とうとしたが、剣を持てない右手となっていた。それを見かねた先生達がストップに入り、勝負は幕を閉じた。
「・・・悪いと思ってるよ。だけど、加減したつもりなんだ」
実際、かなりの力加減をしている。あの程度の力なら打撲で済むはずだった。
だが、これまでは相手がティトだったと考えると僕の認識が甘かったのかもしれない。これまでティトを基準にしていたけど、あれだけ体が頑丈なのはそう居ないと思い知らされた。
「まぁ、勝って良かったです。明日からは静かな学校生活になるでしょう」
「引かれた結果、というやつか?」
「勿論です」
何とも言えずに夕焼けを眺める。
案外、学校というものは楽しくないかもしれない。
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