第33話 手合わせ

そんな風に話していると、近づいてくる気配を感じる。ミユも気付いたのか、箸を置いた。

 

「君が特殊兵のネオ君かな?」

 

「うん、そうだよ」

 

僕に話しかけたのは、高身長の金髪イケメン君。世の不公平さを味わいながら、彼の方を向く。

 

「そうか。僕はリズロットと言う者だ。君と同じ特殊兵だよ。よろしく」

 

そう言って手を差し出す彼の手を握ると、故意的な力の強さを感じる。予想していなかったことに少し顔をしかめながらも返答する。


「・・・よろしく」

 

「ほう」


意外そうな顔をしたが、直ぐに元へと戻る。

 

「実は君とお手合わせを願いたいんだ。お願いできるか?」

 

あぁ、なるほど。そういうことか。

 

「いいよ。そういう場所はあるの?」

 

その答えを聞いた瞬間、彼の顔は歓喜へと転じた。

 

「ここは軍事学校だからね。総合体育館を放課後に抑えておこう。それでは放課後に」

 

そう言って立ち去るリズロット。話しかけられたのは初めてで、嬉しい気もする。

 

「・・・良いんですか?」

 

僕とリズロットの会話を静かに聞いていたクラスメイトがざわつき始める。その中で、コソッとミユは僕に尋ねる。

 

「え、良いよ。最近、剣を振っていないしね」

 

丁度、剣を振りたいと考えていた時だし、断る理由もない。

 

「そうですか。殺されないように気を付けてくださいね」

 

「いや、手合わせで死ぬわけがないじゃないか。オーバーだな」

 

「リズロットという方、殺意を持ってたような気がしますが」

 

「・・・え?」

 

「まぁ、当たり前でしょうね。殺したくなる気も分かります」

 

「え、ちょっと待ってよ」

 

どういうことだ?もしかして、お手合わせというのは決闘レベルのものだったのか?

 

「特殊兵はこの学校の中でも努力に努力を重ねてつかみ取った人のみが許される特別な地位みたいなものです。そんな地位にいきなり共和国から寝返ってなりました、なんて言われたらムカつきますよ」

 

当然みたいに衝撃の事実を僕に伝えるミユ。

 

「つまり、さっき強い力で手を握りしめられたのは力を測るためではなくて・・・」

 

「手を破壊する気だったのでは?」

 

「・・・断れないかなぁ」

 

「それは逃げとして扱われて、学校でより過ごしにくくなりそうですね。私も」

 

私も。を強調して言うミユ。

 

「・・・つまり、僕に戦えと言いたいの?」

 

「はい。ですが私は負ける戦は推奨しない主義です。勝てる戦は推奨します」

 

どうやら、ミユは僕に軍配が上がると思っているようだ。だが、そこまで期待されては困る。確かに特務聖剣部隊に所属していて、幼い頃から剣を振り回してきた。


機動性を活かした立ち回りには自信があるけど、致命的なことに一撃がティトなどと比べると軽い。それを補うための思念術なのだが・・・。

 

「思念術って使っちゃダメかな?」

 

「相手を殺す気ですか?」

 

疑問を疑問として返された。どうやら、使わずに勝てということらしい。

 

「・・・分かったよ。頑張るね」

 

「はい。頑張ってください」

 

「うん・・・」

 

それから全く授業の内容が頭に入らずに時は過ぎた。


 

放課後。

 

総合体育館に向かうと、何故か人混みが体育館の前に出来ている。

 

「これってもしかしてギャラリー?」

 

「そうだと思われます」

 

溜息をつくが、仕方がないと割り切る。人に見られて剣を振るうのは嫌いだが、ギャラリーを入れないようにお願いをしなかった僕のミスだ。

 

「・・・恥をかくだけなのに」

 

後ろでボソッとミユが呟く。

 

「ん、何?」

 

言葉が鮮明に聞き取れなかったので、聞き返す。

 

「いや、何でもないですよ。ただ相手を気の毒がっていただけです」

 

「今は相手じゃなくて僕の心配をして欲しいよ」

 

首を回して、簡単にストレッチをする。


「それじゃ、行ってくるね」

 

「はい。どうかご無事で」

 

人混みの中に紛れて、何とか入り口から体育館の中へと入る。


「うっわ。結構居るな・・・」


どうやら体育館の外だけではないらしい。中の観覧席には結構な人が座っている。しかも、その中には明らかに生徒よりも年をとっている人も見受けられる。

 

「先生もいるのか。って止めてくれないのね・・・」

 

それもそうか。これは簡易版の帝国対共和国の戦争である。誰もが興味を持つはずだ。体育館の中央にいるリズロットを見つけ、歩み寄る。

 

ここで僕が取れる最善の策は、わざと負けるとかではなく、完璧に打ちのめす。である。これによって、僕がいかに戦力として「使える」かをアピールしなければならない。

 

「きちんと来てくれてありがとう。感謝するよ」

 

「こちらこそ。誘ってくれて嬉しいかな」

 

笑顔を僕に向けているが、確かにその顔は殺意を噛み殺している。

 

「それでは始めよっか。模擬剣でいいかい?」

 

「うん。僕は模擬剣でもいいよ。リズロット君は真剣でも構わない」

 

「・・・凄い自信があるんだね」

 

あ、これは煽ってしまったかもしれない。訂正しなければ。

 

「ううん。そういうことじゃなくて、ハンデが無ければ厳しいかなーって、あれ。いや・・・」

 

あれ、どう言っても煽りにしか聞こえない。国語力の限界を悟る。

 

「そうかそうか。うん、そうさせてもらうよ」

 

そう言って腰から聖剣を取り出し、距離を取るリズロット。後ろを向く前の瞬間、これまで噛み殺していた殺意は剥き出しとなっていた。

 

模擬剣。鉄で出来ており、剣の形はしているものの、研がれてはおらず、人を斬ることは出来ない。久しぶりに手にした模擬剣を眺め、精錬場時代を思い出す。入ってから1年間はこの模擬剣しか触らせてもらえなかったな。久しぶりに出会えて懐かしさすら感じている。

 

「条件はどちらかが降伏、で大丈夫かい?」

 

離れた位置からリズロットが呼びかける。

 

「大丈夫だよ」

 

「それじゃ、この金貨が地面に落ちた瞬間に開始するよ」

 

そう言って、金貨を掲げるリズロット。その言葉に頷く僕。

 

それを見て、彼は金貨を高く投げた。

 

金貨を目で追う。落ちるまで、金貨を見つめる。

 

落ちた瞬間、いや、落ちる直前にリズロットは凄まじい早さで間合いを取りにくる。

 

恐らく、わざとではないのだろう。力んでしまったせいでフライングしたに違いない。彼の剣をかわしながら、考える。

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