第32話 カミングアウト
「どういうことですか!」
「言ったらマズかったよね・・・多分」
「多分じゃないです!あの怖そうな教師まで固まってましたよ!」
教室の雰囲気が凍り付いたまま一限目が終わり、チャイムが鳴った直後に僕は廊下の端へ拉致された。
「しかも、何を思ったのか担任まで・・・」
はぁ、とため息をつくミユ。そう、僕の自己紹介に激しすぎる動揺を受けた担任教師が、元共和国軍であり、今は帝国軍特殊兵であることも言ってしまった。
「厳し過ぎる学生生活になりそうですね」
「うん。よく考えてみるとヤバいかも」
共和国に居た頃の自分の前で、元帝国軍で今は共和国軍です、なんて自己紹介されたらその人を味方として、同僚として信用することは難しいだろう。もしかして、僕はとんでもないないことをしでかしたのかもしれない。
「・・・戻りましょうか」
「・・・うん」
もう何かが吹っ切れたような顔をして、ミユが言う。それに同意する僕は、段々と事態のまずさに気付き初めていたのだ。
廊下まで教室の騒がしさは聞こえていたのだが、僕達が扉を開けると急に静まり返った。これは非常に高いダメージを心に負う。もし、自己紹介の時に適当な嘘をついておけば、今頃はこのクラスにいる誰かと楽しくお喋りが出来ていたのかもしれないな・・・。
だけど、嘘はいつかバレる。そう、いずれかはこういう状況になるんだ。僕はそれを早めに決行しただけに過ぎない。そう自己正当化の論建てを行っていたら、隣の席のミユから不満そうな顔が僕の方へと向けられていた。
「平凡な学校生活を私は送りたかったです!」
そう小声で僕に告げて、机に顔を伏せて寝始める。いや、実際には寝ていないのだろう。周りからの浴びせられる様々な思惑の目線に耐えているのだろう。本当に申し訳なく思うけど、自分の力では現状、どうすることも出来なくて僕は目線を窓の外へと向ける。
元共和国軍の帝国軍特殊兵が転校してきた。という噂は昼前までに他クラスまで浸透したようだ。昼食を2人で食べていると、廊下側からかなりの目線を感じる。
「席が教室の左端で良かったですね。廊下側だったらストレスが倍増しそうです」
「何だかごめんね・・・」
「いや、もう諦めてますから。早くお昼を食べましょう。今日の里芋は絶品のハズです」
ミユが作ってきてくれた弁当を開けると、確かに絶品だという里芋の煮物が入っている。一口食べて見ると、確かにこれまで食べてきたどの里芋よりも味が染み込んでいる。これを朝の短時間で作っているとは驚くしかない。
「うん、凄く美味しいよ!」
「まぁまぁですね」
嬉しそうにはにかみながら、ミユも里芋を食べる。でも、里芋以外にも絶品級のものだらけだ。
「どうしてこんなに料理が美味いの?前の所で習ったとか?」
「いいえ、これは完全な趣味で、習ったりはしてませんね」
「趣味でこのレベルか・・・。凄いね、流石だ」
「そうですか?」
「うん。向こうに居た頃はこんなに美味しいご飯を食べたことがないよ」
「そうですか。可哀想ですね」
哀れまれる僕。そんな目で見ないで欲しい。自分が本当に悲しい存在に思えてしまう。
「僕も料理を作れたら良いんだけどね・・・」
そういえばラウラは時々自炊していたな、と思い出す。一度だけ食べさせてもらったけど、なかなかの腕前だった覚えがある。
「そうですね。今後、一緒に作ります?」
「え、良いの?」
「ええ。雑用・・・いえ、料理によってはお手伝いしてもらえる人が欲しいので」
「今、雑用って言ったよね!?」
「気のせいですよ」
またもや気のせいにされた。今度、ボイスレコーダーでも買ってみようかと悪知恵が働く。
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