第31話 編入初日へ
ミユがドアを開け、先に家へと入る。
あぁ。そうか。一緒に住むから鍵を持っていて、だからあの時に入ってこれたんだ、と今から数時間前の出来事を思い出す。
「お帰りー・・・ってまだ警護さんは居たのですね」
後半部分を、頬を膨らましながら言うシズ。誰にでも分かるような不満を顔全体で表している。
「実はここ、私の家でして」
「え・・・?」
持っていた机のパーツを床に落とすシズ。うん、それが正常な反応だ。
「2人とも反応が同じですね。もしかして怪しい計画を・・・」
「立ててないよ!」
慌てて否定する。まだ帝国人となって一日もたっていないのに疑われるとは心外極まりない。勿論、そんなことも考えていない。
「それなら良いじゃないですか」
「いや、良いんだよ?良いんだけど、そこまでしなく
ても・・・」
「そこまでする必要があります。なにせ、ネオ様は思念術を行使出来る聖剣使いなのですから」
「あ・・・」
マズい。これは非常にマズい。この事はまだシズには伝えていない。もし伝えたら、私の事なんて必要無いんだ・・・って機嫌が悪くなることが目に見えている。だから避けていたのだが。
「え? ネオは思念術を使えないよ?」
「それは嘘ですね。おそらく、シズさんを信用出来なくて言っていなかっただけだと思われますよ」
「・・・・・え?」
シズの首がゆっくりとこちらを向く。
「いやッ、違うからな!決して信用していないって訳ではなくて」
「使えるの?」
冷ややかな目で見られる。
「・・・使えるようになりました」
「何で言わなかったの・・・?」
「言う・・・タイミングがなくて」
苦しみながら、なんとか言葉を紡ぐ。
「ねぇ、それって私要らない子になるよね・・・」
「いや、違うよ!?僕が出来るのはあくまでも威力強化だけであって超常現象は起こせないからね?あとこれはシズを助けるために身に付けたもので!」
「あー・・・それなら良かった!」
にこやかな笑顔へと戻ったシズを見て、一安心する。
「威力強化でも十分だと思うのですが・・・」
「いや、シズが引き起こすものと比べると、粒のようなものだよ」
「そういうものなんですか」
「うん。あと、さっきシズをわざと煽ったよね?」
「・・・何のことかわかりません」
そう言って逃げられた。あぁ。これが毎日続くのか・・・。
ティトとレイのやりとりを見て、微笑ましいなと思っていたけど、考え方が180度変わったかもしれない。ふと窓から夜空を見上げると、ティトが笑っている顔が安易に想像出来た。
「よし、もうご飯にしよう。あとは明日だ」
部屋の中は未だに段ボールや梱包材、ビニール袋で埋まっているが、ある程度は部屋の全貌が見えてきた。
「部屋の全てが黒で統一されてるね」
黒が好きなのだろう。運ばれてくる荷物のほぼ全てが黒色となっている。
「はい。オシャレが分からないので、全て黒にしました。気に入りましたか?」
「う、うん」
「そうですか。良かったです」
別に気に入らなかった訳ではないが、ミユもシズと同様にこういうものは苦手なのだと思い知った。とことん似ている2人である。
編入当日。
ミユが朝食を用意してくれ、3人で食卓を囲う日々にも慣れてきた。
「今日も悪いね。いつもありがとう」
栄養バランスも考えられており、美味しい食事を頂きながら感謝を述べる。
「これ趣味なので」
「そうだとしても、だよ」
いつか僕も作らなければならないな、とは思いはするのだが、料理なんて生まれてきてから今までしたことないのでどうしようもない。
「お二人の制服はこちらです」
そう言って僕達に差し出すのは帝国軍事中等教育学校の制服。そういえば、この長い名称の学校は帝軍校と略されることが多いらしい。
「おおー!」
シズが喜んで制服を受け取る。
「今すぐ着替えてくるね!」
そう言い、シズは自分の部屋へと駆け込む。
「予想は出来ているけど、ミユも僕達と一緒に帝軍校へ編入するの?」
「はい。監視・・・いえ、警備を疎かにする訳にはいかないので」
「今、しっかりと監視と言ったよね!?」
「気のせいでしょう」
しっかりと気のせいにされながら、ミユの言葉を聞く。
「ネオ様、シズさんは現在の年齢で16歳、13歳で間違いありませんよね?」
「うん」
ちなみに、シズの誕生日は3月4日。僕の誕生日は3月28日だ。
「ネオ様が4年生、シズさんが1年生への編入となります。とは言っても今は1月なのであと数ヶ月なのですが」
「分かった。ミユも4年生に編入するの?」
「はい」
「・・・何だか合わせてもらって悪いね」
「いえ、お構いなく。私もこういう学生生活は経験したことがないので、楽しみです」
楽しみです、と真顔で言われても困るだけだ。
ミユは帝密院を2年で卒業しているらしく、既に高等教育の卒業資格を持っている。だから、今回の編入はただのやり直しでしかないのだ。
「ねー見て!似合ってる!?」
着替え終わったシズがモデルのようにポーズを決め、感想を求めてくる。
「うん。凄い似合ってるよ」
「本当? 良かったぁ!」
嬉しそうにその場で1回転をするシズ。その笑顔を見ているだけで、こっちも和やかな気分になる。
「リボンが傾いていますよ」
「あれ? ズレてた?」
「はい。直すのでジッとしていてください」
そう言ってリボンを直すためにミユがシズの前にかがむ。
「これで大丈夫ですよ」
「ありがとう!」
どうやら、今朝は口喧嘩をしないらしい。ホッとしながらスープを飲む。
「それでは私も着替えなければならないので」
「うん」
さて、洗い物くらいはしなくちゃね。
学校までの道のりを3人で歩いていたが、中等部は校舎が違うので、シズとは道の途中で分かれることとなった。
「行ってくるねー!」
そう言って坂道を全力で走るシズ。よほど楽しみなのだろう。
「うん。行ってらっしゃい」
そう背中に声を掛けて、高等部の校舎へとミユと2人で歩く。
「・・・着いて行かなくて大丈夫かな」
シズのことが急に心配になる。ミユとは何故か最初から普通に接することが出来ていたが、シズは本来人見知りである。また、これまで集団生活を僕以上に経験してきていないから、周りに馴染めるのかも心配だ。
「過保護ですよ。娘の巣立ちは思うところがあるかもしれませんが、我慢するのが親というものです」
「僕は親じゃないよ・・・」
親ではないが、これが巣立ちなのかな、と思う。これまで僕としか話してこなかったシズだが、最近ではミユとも喧嘩しながら話すようになり、これからはこの帝軍校で出来た友達と話すようになるんだろう。
少し寂しい気もするが仕方がない。あとは、シズに良い友達が出来るように・・・・。
あれ?友達ってどうやって作るんだっけ?
その頃、ネオの友達であるラウラとティトは複雑な思いで元共和国軍特務聖剣部隊特殊兵とそのペアの部屋にある私物を捨てていた。
教室の前で待機していたが、担任の先生から入れとジェスチャーを受ける。
「と、いうことで今日から2人の転校生がウチのクラスにやってくる。2人とも、自己紹介を」
そう言われ、顎で僕から自己紹介するように指示される。
「あ、はい。共和国から来ました、ネオと申します。よろしくお願いします!」
その瞬間、クラスは凍りいた。あれ、もしかしてダメだった? そう思い、ミユの方を見ると頭を抱えていた。
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