第30話 類似ならぬ酷似

「・・・言っちゃうんだね」


「言うなという指令は受けていません。また、気付かれていたのでは?」


「まぁ。そうだね」


あと、もう一つ気になったことを聞いてみる。


「ところで、シズには当たりが強く思えるんだけど。これは僕の気のせいなの?」


すると、無言でどこか遠くを見つめるミユ。


「うん、気のせいだよね。変なこと言ってごめん」


慌ててカバーをして、会話を終わらせることにする。


そんな僕を見て、彼女は笑う。


「・・・似ているんですよ。私と」


「うん。似てるよ」


「この指令が私に下された時、私はシズさんと見間違われたことを思い出しました」


「あー・・そういえば」

 

そういえば。あの車内で初めてミユと出会った時、僕はシズと見間違えた。

 

「それで、どれくらい似ているのか。と思い、実際に出会ったのですが・・・・」


ため息をつく。

 

「想像以上に似ていました。私も認めざるを得ないです」


「そうでしょ!? 似てるよね!」

 

やっぱり、本人も認めざるを得ないほどこの2人は似ているのだ。


顔の作りから、体のパーツまで。シズはこのまま成長したら、必ずミユのようになるし、ミユの幼いころは絶対にシズとそっくりだろう。


「はい。ですが・・・」

 

苦虫をかみつぶしたような顔をするミユ。

 

「・・・私が嫌いな頃の私に似ているのです」

 

「・・・なるほど」

 

なるほど、としか言い様がないな。

 

「自己中心的な考え方であり、誰かに依存しなければ生きていけない。おそらく、人見知りなのでしょう」

 

「えー・・・そこまで言わなくても・・・」

 

というか、知らないはずのシズの特性、人見知りを当てて見せるとは。

 

「まだ小さいし、いつか落ち着くよ」

 

とりあえず、免罪符を打つ。そう、まだシズは14歳。

 

「ダメです!」

 

「ダメなの!?」

 

急に強く言われて驚く。


「あのままで成長させたらロクなものになりません。保護者なら、きちんと正しい方向へと導いてあげてください」

 

僕、保護者だったのか。

 

「まぁ。うん、そうだね。ちょっと注意するようにするよ」

 

「それ、絶対、しない人が言うセリフですよね」

 

「ち、違うよ。きちんと言うから!」

 

「はぁ・・・・」

 

ため息をつき、突如周りを見渡すミユ。

 

「ところで、何処へ向かっているのですか?」

 

「え?」

 

そういえば、ご飯を変えるところを知らなかった。

 

「・・・まさか、行く場所すら決めていなかったのですか?」

 

ジト目で覗かれる。

 

「・・・はい」

 

「はぁ、分かりました。着いてきた私にも責任があります。一緒に探しましょう」

 

そう言って、再び歩き出す。

 

「あれ、ミユはここの近くに詳しくないの?」

 

「詳しくないですね。元々は帝密院に居たので」


そういえば、初めて出会った時に、帝密院という言葉を聞いた気がする。

 

「あぁ、そうですね。帝密院とは要人警護や暗殺などを専門とするスペシャリストの育成機関です。山の中にあり、滅多に帝都には行きません」

 

「なので、私はこの都会には少し疎くて。正直、どちらに言ったらご飯を買えるかがわかりません」

 

「・・・もしかして、僕は暗殺対象とかです?」


答えを聞くのが恐ろしいが、聞かずにはいられない。

 

「あ、そうでしたね。はい、そうです」

 

「え!?待って!僕、まだ何もしていないから!」

 

猛スピードで迫りくる突然の死に驚きながら、説得を試みる。

 

「違いますよ。暗殺対象でした。過去形です」


とりあえず、胸を撫で下ろす。

 

「共和国の特務聖剣部隊は全員対象でしたよ。L2という名を聞いたことありませんか?」

 

「暗殺部隊の名前・・・あぁ、そういうことか」

 

「はい。何度か遭遇していると思います」


「うん・・・って、L2の人?」

 

もしかして、戦場で刃を交えた相手なのか・・・?


「いいえ、違いますよ。私はこれが初任務なので」

 

「そうなんだ・・・・頑張ってね」

 

「任務対象に言われると、全く心に響かないです・・・」

 

酷い言われようだ。


だが、監視ならぬ警備がミユで良かったと思う。これが規律に厳しい年が離れている人とかだったら、色々なことに気を遣わないといけなくなり、気が滅入る毎日を過ごすところだった。

 

都会なこともあり、近くに惣菜屋を見つけ、そこで弁当を購入して自宅となった場所へ帰る。

 

「ところで。ミユはどこにこれから住むの?」

 

もし、離れている場所なら今から送らなければならない。もう既に夜遅いし、これ以上手伝ってもらう訳にはいかない。

 

「私を路上生活へと追い込む気でしょうか」

 

そう言って軽く睨まれる。

 

「あの部屋に決まってるじゃないですか」

 

「・・・・え?」

 

「言ってませんでしたっけ?」

 

「言ってません!」

 

「では、そういうことなので早く帰りましょう」

 

プライバシーが亡くなったことを泣いている僕をおいて、スタスタと帰路につくミユ。

 

「早く帰りますよー」

 

後ろを振り向いたミユから僕を呼ぶ声がするが、衝撃から覚めることが出来ずに立ちすくしていた。

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