第29話 監視役

それから2時間後には、荷物をまとめて入寮していた。

 

「広―い!!」

 

部屋の広さにシズは喜び、跳ねる。

 

「大人しくするんだぞ。下の部屋に響くからね」

 

マンションのようになっている寮は、おそらく建てられてから間もなく、部屋も綺麗な状態だった。部屋の広さは2人で過ごすにはゆとりがあり、こんな部屋を使って良いのか、間違いでないのかと誰かに尋ねたい程である。

 

「・・・家具は買いに行くしかないか」

 

当然ながら、僕達の家具を送ってくれと共和国に伝える訳にはいかない。皇帝から、ある程度のお金を頂いているため、家具一式を揃えることは問題なくできる。

 

「だけど、本当に何もないんだな。ベッドくらいならあると思ったけど」

 

「でも、私はこれで良いと思うよ?」

 

「ダメだよ!」

 

「えー・・・」

 

無駄なものを置かないミニマリズムなシズらしい提案だが、これでは必要なものすら揃っていない。

 

「ほら、買い物に行くよ」


時刻は夕方に迫っているので、今日で全てのものを買うことは出来ないだろう。だが、買えるものは買っておきたい。

 

「はーい」

 

シズが玄関に姿を現した瞬間、僕の前にあるドアが開いた。

 

「ネオ様の警備を今日から担当させて頂く、ミユと申します」

 

長い黒髪を持つその女性は無駄のない動作で僕達へ礼をした。

 

「・・・ミユさん!?」

 

事実の一端を僕に聞かせた張本人である。

 

「はい。どうも」

 

「こういう形で会うとは思わなかったよ・・・」

 

「私も、ネオ様が帝国に残るとは思ってもいませんでした」

 

「アハハハ・・・。これから、よろしくお願いします」

 

仕方なく笑い、一応挨拶を述べる。

 

「はい。よろしくお願いします」

 

ミユさんが挨拶を返したところで、黙ったまま見ていたシズが叫ぶ。

 

「って、ネオ!? それは誰!?」


何故か焦ったように僕へ問いかけるシズ。

 

「ミユさんだよ。僕が捕まった時にお世話になったんだ」


ありのままの真実を伝える。

 

「はい。色々とさせて頂きました」

 

「えー! そんなの聞いてないよ!」

 

「そうだね。うん、これは言ってなかったかもしれない」


確かに言ってなかったな、とシズを認める。だが、これは驚いた。あのシズが初対面の人を相手に大きな声を出している。一体、どういうことなんだ?

 

「ちゃんと言ってよね!」

 

「お待ちください。ネオ様にもプライベートは存在します」

 

「ミユさん・・・・?」

 

シズをなだめるために、僕が折れて会話を終了させたにも関わらず、何故かミユさんが意味不明な発言をする。

 

「な、何を言ってるの?私たちの間の取り決めなの!」

 

シズが対抗して発言するが、僕達の間にはそんな取り決めはない。

 

「それでは取り決めの内容を詳細にお伝え願います」

 

堂々と言うミユさんの顔は対抗心で燃えていた。

 

「ちなみに私はネオ様と同い年であるため、ミユで構いません」

 

「あ、そうなんだ。てっきり年上かと」

 

そうだったのか。かなりしっかりしているから年上だと思っていた。

 

「それはどうでも良くて!」

 

シズが顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

「何がどう良いのでしょうか」

 

シズとは反対で冷静に言葉を返すミユ。

 

「2人とも落ち着いて!早く買いに行かないと日が暮れちゃうよ!」

 

このまま待っていても進展は一切なさそうなので、声をかける。

 

「その件なのですが、皇帝の命により、全てを揃えさせて頂きました。そろそろ到着するかと思われます」

 

「・・・え?」

 

その通りであった。それから数時間は呼び鈴が鳴り止まず、部屋は積まれた段ボールで前も見えない。何が届いたのか、段ボールを開ける暇もなく、ただ荷物を受け取るだけに徹していた。

 


夜も遅くなってきたのにも関わらず、段ボールの大半はまだ閉じたまま。

 

「そろそろ僕がご飯を買ってくるよ。このまま部屋を作っておいてくれる?」

 

「うん!」

 

これまでインテリアなど微塵も興味を示さなかったシズだが、モノが溢れている今は楽しそうに部屋を作り上げている。


趣味を何一つ持たないシズをずっと見てきた身として、何かしら、それこそインテリアでも良いから趣味を持って欲しいと僕は思っているのだ。

 

熱中しているシズをおいて、静かにドアを開け、外に出る。すると、静かにミユも着いてくる。

 

「・・・ミユも来る?」

 

監視の為だと知りながら、あえて、形式的にミユに尋ねる。

 

「はい。是非ご一緒させて頂きたいです」

 

「うん。分かった」

 

廊下を歩きながら、多くの光で埋まっている外を見る。ここの景色だけで、どれだけ帝国が共和国よりも経済的に発展しているかが良く分かる。

 

エレベーターに乗り、一階で降りる。街灯に照らされた道を歩きながら、尋ねてみる。

 

「ミユの仕事は警備の他に何が含まれているの?」

 

監視とは直接言わずに尋ねる。

 

「監視です」

 

直接的に返答は帰ってきた。

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