第28話 再び特殊兵へ

そうとするうちに時は過ぎ、謁見の間へと案内される。そこは普通の部屋と違い、天井が高く、皇帝が座っている場所は僕達の居る場所よりも数段高い。昨日のように対等な目線で話をする形ではなく、まさに、今日のこれが一般人の想像する皇帝との対面である。

 

「良く来た。ただ、少し待ってくれ」

 

「「はい」」

 

シズと共に返答をする。何を待つのかを知らないまま、数分が経過した。そして、僕達がここに来たように大きなドアを開け、男女のペアが隣へとやってきた。

 

「ティトさん・・・・レイ・・・!」

 

シズが驚きを漏らす。ティトと目が合うと、ティトがニヤッと笑った。


久しぶりだが、外見を見るからに、健康そうなのでひとまずは安心する。

 

「それではそれぞれの結論を聞こうか」

 

「私達、ネオとシズから話させて頂きます」

 

「うむ。続けよ」

 

「はい、私達は・・・」

 

共和国で過ごした日々が思い返される。特に親のことを。もう、二度と会えないかもしれないが、僕達はこう結論付けた。

 

「帝国軍へのお誘いをありがたくお受けします」

 

隣ではレイがその言葉を聞いた瞬間、反射的に体を動かした。予想していなかったのだろう。

 

「そうか。歓迎するぞ」

 

皇帝が軽く頭を下げたことに驚き、慌てて僕達も最敬礼を行う。

 

「それでは、君たちはどうなんだ?」

 

君たち、とはティトとレイ。僕は知っている。彼らがどういう答えを導いたのかを。

 

「帝国軍へのお誘い、お断りさせて頂きます」

 

ティトが揺るぎない意志を持っていることを示すように、はっきりと皇帝と顔を合わせて答える。

 

分かっていた。ティトの性格で、今さら帝国に寝返るようなことは出来ないと長い付き合いで知っていた。

 

「そうか。分かった」


皇帝も、それを知っていたかのように頷いて、ティトの言葉受け取った。

 

「それでは、ネオくんとシズくんはここに残ってくれ。二人は今から国境に行ってもらおう」

 

「「はい」」

 

ティトとレイが直立不動で答える。そして、ティトが僕にへと話しかえる。

 

「やっぱりだな」


ニヤッと笑い、手を握る差し伸べるティト。

 

「うん。ティトならそうすると思ったよ」


その手を握り返す。

 

「これからは敵同士になる訳か。将来なんて予想できるものじゃないな」

 

豪快に笑うティトの目には微かに涙が溜まっていた。

 

「うん。また・・・会おうね」

 

「おう!」

 

そう言うと、ティトは外へと足を向ける。レイは少しこっちを向いて僕達に手を振る。僕達も手を振り、二人が外に行くのを見守る。視界から二人が消えると、僕は皇帝の前に跪き、一つの願いを伝える。

 

「どうか、二人とも無事に返してあげてもらえないでしょうか」

 

フッと笑う彼からは一切の悪意が感じられなかった。

 

「問題ないぞ。私は元から何もしないつもりだ」


「・・・ありがとうございます」

 

その言葉が本当ならば、妙な人だ。ティトとレイは共和国軍の主力である特務聖剣部隊の中でもトップクラスの実力を持つペア。この2人を排除するだけで、戦況は随分改善するだろう。それにも関わらず、この2人を釈放するのはどういうことなのだろうか。説明がつかない。

 

これは声に出して言うことは決してないのだが、もし僕達が帝国軍への誘いを断った場合、目の前には処刑台が現れると思っていた。シズと再開できた今、身の安全を確保する意味でも帝国を選んだのだが、これは杞憂だったらしい。

 

「さて、我が軍は2人を迎えたいのだが」

 

皇帝の話に耳をかたむける。

 

「君たちは若すぎるんだ」

 

「・・・はい」

 

「だから君たちには適正年齢になるまで帝国軍事中等教育学校で過ごしてもらおう」

 

想像していなかったことを言われ、思考が停止する。


「学校・・・ですか?」

 

「うん。そうだ」

 

シズが目を輝かせてこちらを見る。


そうか、確かにシズは一般的な学校に憧れていた。シズと一緒に街へ出ると、軍の制服ではなく、学校の制服を着ている子を見る度に羨望の眼差しを向けていた。

 

「だが、こんな人材を眠らせておくことは勿体ない。だから特殊兵として2人とも登録させてもらう」

 

特殊兵。共和国ではただの肩書きのようなものだったが、帝国における特殊兵は少し異なるらしい。軍属であり、軍属でない軍人。つまり、特殊兵の戦力を必要とされる状況においては兵士として招集され、それ以外は帝国軍事中等教育学校の生徒として扱われる。

 

「分かりました」

 

話を聞く限りでは、ありがたいシステムだと思う。

 

「あと、ネオくんに関しては要人扱いになるから警護がつく。今日中には警護と顔を合わせることになると思うよ」

 

「はい」

 

おそらく、監視であることは間違いないだろう。だが、仕方がない。むしろ、ついこないだまで帝国兵を斬っていた僕を無条件で信頼する、という方が逆に気味悪く感じる。

 

「これくらいで大丈夫かな。あとは警備兵に軍事学校の寮まで送らせるよ」

 

「ありがとうございます」

 

「最後に。これを返すよ」

 

皇帝は立ち上がり、僕達の方へと何かを持って歩み寄る。

 

「君の聖剣だ」


皇帝から手渡しで受け取ったものは、紛れもなく僕の聖剣だった。

 

「・・・ありがとうございます」

 

受け取ったが、少し戸惑う。こんなにも軽く渡して大丈夫なのだろうか。今、僕が皇帝に向かって剣を抜けば簡単に彼の命を絶つことが出来るだろう。それだけ信用している、ということなのか? 


・・・考えても分からないことだ。皇帝という立場の人の考えを一般人が推測できるはずがない。

 

「それでは。また、会おう」


そう行って僕達に背を向けて歩く皇帝。


得体の知れない人間だった。

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