第24話 事実を事実と認識する

「って痛った!!!!!」

 

目を閉じてしばらくしたら体に電流が流れた。

 

「ごめんなさい。でも、私も仕事なんです。皇帝に謁見する前に、少しくらい常識を付けて貰わないと困るんで」

 

「まるで常識がない、という風に聞こえるんだが」

 

少し不満を持ってミユさんに尋ねる。

 

「はい。共和国の方なんで仕方がないとは思っていますが」

 

少しも顔色を変えずに話すミユさん。

 

「もう・・・分かったよ。どうぞ、話してくれ」


信じるかは別だけどな、と思いながらミユさんの話に耳を傾ける。

 

共和国は閉鎖的な国である。海に面しており、山もあり、気候も穏やかなため、食料に困ることはない。なので、貿易も必要がない。


それ故、共和国民は国からもたらされる情報以外に世界の情勢を知りようがない。なので、国民に「世界の全ての国は帝国によって支配された」と伝達すると、面白いように信じてしまうのである。それを共和国の政治家達は活用した。

 

帝国は政治家以外にも多くの犯罪者が共和国に逃亡していることを知っており、それらの引き渡しを要求してきたが、要求先がその犯罪者、共和国の政治家の為、応じることは一切なかった。


そのため、軍事力をもって共和国自体を制圧し、そこからは帝国からの犯罪者を引き抜いた人員で健全な国家運営を望んでいるのだが、共和国は先天性思念術士が存在し、軍事力はとてつもなく高いものだった。


そして、誤った歴史を教え、国民に反帝国意識植えつけている。これにより、帝国は打つ手が無くなってしまっているのである。

 

「ともかく、ネオ様は間違いの情報を受けて生きてきたのです」

 

「・・・」

 

やはり、にわかには信じられないものである。

 

「理解はしなくても良いです。とにかく、お伝えすることはお伝え致しました」

 

「ミユさんが言ったことが嘘ではないと誰が証明するんだ?」

 

気になったことを聞いてみる。確かに、矛盾点は見つからず、彼女が言ったことはでっち上げとは思えない。


だが、誰がそれを本当だと証明してくれるのだろうか。「本当」とは何だろうか。僕は、これまで共和国から受けてきた情報を「本当」として生きてきた。


極悪非道の帝国は許されるものではない。帝国に侵略されてはいけない。その為に、幼少期から全てを軍のため、国民のために捧げてきた。


だが、それが「嘘」だった場合。僕は嘘に操られて生きていたのか。そしたら、僕自身が嘘に作られた人間になるのか。


「僕」の存在が変わるほどのことを誰が証明してくれるのか。

 

「なるほど。でも、少し考えれば分かると思いますよ」

 

少し考え、彼女が口を開く。

 

「もし、帝国が全ての国を統治していた場合、帝国軍は共和国軍の何百倍、何千倍もの人員だと思いませんか?」

 

「それだったらいくら先天性思念術士が居ても勝てないと思うのですが?」

 

頭の何かが外れたような気がした。


これまで漠然と抱いていた疑問が、ようやく鮮明な形として目の前に現れた。


帝国軍兵士は共和国よりも多い人員だが、世界を制服していたら、とんでもない数がいたに違いない。そして、多方向から攻め込まれていたのに違いない。


何故だろう。何故、こんな簡単なことに気付かなかったのだろう。これまで、鍵を掛けていたみたいに閉じていた疑問がとめどなく思考の中へと流出する。

 

「分かりました?」

 

「・・・うん」

 

そう言わざるを得ない。

 

「だけど、全てを納得した訳じゃない」

 

まだ、共和国が帝国の犯罪者によって動かされているなどのスケールが大き過ぎる話については納得したつもりはない。

 

「全然、大丈夫です。問題ありません」

 

そう言うと、窓にかかっていたカーテンを外すミユさん。

 

「既に皇宮に到着しています。今から何があるのかは私には分かりません。ですが、いずれかお会いすることになるかもしれませんね」

 

そう言ってベッドと僕を拘束している器具を外す。

 

ようやく自由に体を動かせる身となり、首を回し、腕を振る。

 

「あ・・・痛い・・・」

 

驚くことなく、ただ単純に痛みを感じてしまった。痛みが走る腕を見てみると、包帯で巻かれていた。

 

「寝ている間に結構縫っているんで気を付けてください」

 

呆れたような表情をしているミユさんから忠告を頂く。


言われるまで全く気づかなかったのだが、僕は数日間眠り続けていたらしい。どうやら、体も限界だったようだ。

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