第23話 世界への認識

「あなたは共和国軍特務聖剣部隊特殊兵のネオ様で間違いありませんか?」

 

「うん」

 

今更ながら、何があったかを思い出す。峠の真ん中で帝国兵士と剣を交えたこと。そして、破れたこと。

 

「それで、今は処刑台へと輸送中かい?」

 

僕の人生は終焉へと向かっていることは分かっている。手足は頑丈にベッドらしきものに拘束されており、逃げだすことは出来ない。


逃れないようのない運命はただ受け入れるだけだ。


シズに会いたいが、もはや思うだけで僕を苦しめることを、僕は理解した。 

 

「いいえ、皇宮です」

 

「・・・皇宮?」

 

「はい。皇宮です」

 

皇宮。帝国の皇帝が住み、政治を行う場所。


何故、僕がそこに連れてかれるのが理解出来ない。

 

「何で皇宮なんだい・・・?」

 

「皇帝がネオ様に関心を示している為です」

 

「何故僕に・・・」

 

残念ながら、僕は生粋の共和国人だ。生き別れの弟や兄、といった可能性は存在しない。血縁にも共和国人しか存在せず、帝国人とは全くご縁がない。

 

「それは皇帝にお聞き願います」

 

「そろそろ、私の仕事を行っても大丈夫でしょうか」

 

冷静な声色で僕に告げる。

 

「ミユ・・・さんの仕事って何?」

 

ミユとシズ。発音も同じで、シズに語りかけるような口調になりそうだった。


またもやシズのことを考えている自分が情けなく思う。忘れなくちゃ、忘れなくちゃダメなんだ。

 

「私の仕事は、ネオ様の帝国、及び世界に対する認識を改める事です」

 

「・・・つまり洗脳ってことなのか?」

 

洗脳。その技術は共和国にも存在する。だが、成功率は低く、大抵は人として「使い物にならない」ものになる。その為、最近では研究を中止したという噂が流れていた。


だが、帝国は共和国よりも科学分野でも進展しており、洗脳技術を確立しているのかもしれない。

 

「違います。事実をお伝えするだけです」

 

そう言い、彼女は水を飲む。

 

「まず、ネオ様が知っている帝国と世界はこうなのではないでしょうか」

 

そこから、彼女は僕が知っている全てを話しだした。帝国は私利私欲の為に領土を広げ、共和国を除く全ての国を統治した。結局のところ、要約したらこのようになる。

 

「うん。そうじゃないの?」

 

「はい。ネオ様の認識が正しいのは、先々代皇帝の時代までです。先々代皇帝は帝国の利の為に帝国近辺の国を武力により制圧しました。ですが、先代皇帝に時代が変わると、統治下に置いていた国に自治権を与え、統治前と同じように致しました。先代皇帝は経済圏の統合を目標としており、領地などはどうでも良く、世界経済の発展だけを願っておりました」

 

ミユさんが、ひとまず話を区切る。

 

「ネオ様は経済の発展のためには何が必要だと思いますか?」

 

「・・・ごめん、経済はよく分からなくて」

 

僕は軍人であり、人を斬ることしか覚えてこなかった。人を斬ることに経済は不必要なため、学習してこなかった。

 

「そうですか。先代皇帝によると、経済圏の拡大、共通通貨の導入だそうです」

 

「・・・そうなんだ」

 

合っているのか、間違っているのかは不明だが、そういうものだと理解しておく。

 

「はい。そこで、統治していた場所を実質的に放棄する代わりに、帝国通貨の導入と自由貿易を認めさせました。そこから、帝国の周りにある国は爆発的な経済発展を遂げました」

 

全く知らないことを聞かされ、現実感が見えない。

 

「そういう実績から、世界中の各国から共通通貨の導入が打診され、殆どの地域では帝国通貨が使われるようになりました。自由貿易も行われています。そして、何より先々代皇帝以降は軍事行使を共和国以外に行っていません」

 

「ごめん、意味が分からない」

 

全く理解出来ない。帝国は世界を統治していたはずだ。これまで知っていた事実が全て覆されるようなことをこの子は言っている。

 

「それでは、ネオ様がそう勘違いをしている理由をお伝えします」

 

そう言うと、ミユさんが隣に置いていた紙を見せる。

 

「この方々はご存じですか?」

 

「・・・うん」

 

その顔写真は間違いない共和国の政治家達だ。

 

「彼らは犯罪者です。どうぞ」

 

そう言って僕に見せるのは逮捕令状。

 

罪状、詐欺。選挙法違反。その他にも沢山の犯罪が出てくる。彼らの若い写真と共に。

 

視覚から脳に伝える情報がパンクしている。

 

「そもそも、共和国は帝国の亡命者により作られたことを知っていますか?」

 

「・・・知らない」

 

そういえば、祖国の成り立ちなど聞いた事がない。

 

「そうですか。共和国は帝国の犯罪者達によって作られました」

 

あぁ。もう無理だ。これ以上、彼女の話を聞くことは無駄だ。何一つ頭に内容が入ってこないし、真実味がない。


そっと目を閉じる。今まで、祖国である共和国には様々な不満を持ってきた。だけど、そこまで酷い国ではないはずだ。


これは帝国による僕への洗脳だ。そうとしか考えられない。


だが・・・だが、一筋の不安が胸をよぎる。共和国の徹底した閉鎖的な、排外的な行動は。もしかしたら・・・。

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