第22話 捕縛

後ろから着いてきているのか、ただの偶然か。この一時間弱、分岐点の少ない田舎道だからなのかもしれないが、この輸送車両にピッタリと着いてくる一般車両がある。

 

「そろそろ睡眠を取りたいんだけどな」

 

もう運転し始めてかなりの時間が経過している。睡眠を取り、明日に備えたいのだが、この状況にいてはそういかない。

 

「一応、振り払うか」

 

これまでは帝国の法令速度を遵守してきたが、こうなったら仕方がない。後ろの車を引き離すために少しばかりスピードを上げることにする。


帝都までは直進すれば良いだけなのだが、振り払うために角がある度に右、左とランダムに曲がっていく。


かなりのスピードで走っているので距離は着実に離れているが、相変わらずしっかりと着いてくる。

 

これは黒だ、と確信した。そうなると、どこか人目につかないところに誘導して、斬るしか方法はない。


やはり、あの給油所のお爺さんを斬っておくべきだったか。自分の甘さに舌打ちをせざるを得ない。


地図を見ると、この先に峠がある。既に夜になっているこの時間帯に峠を通る者は少ないだろう。そう考えて、目的地に向けて走り出す。

 

どうやら、ここら辺は大規模な道路改修があるようで、何度も曲がりたいところを曲がれなかったが、どうにか峠の入り口へと後ろの車を誘導することが出来た。


峠を半分まで進んだところでブレーキを踏む。そして、着いてきた車が止まったタイミングで聖剣を持ち、ドアを開ける。車に歩み寄りながら、思念術を実行する。

 

車からドアを開ける音が聞こえた。

 

「帝国軍調査部隊だ。共和国兵士、同行を願おう」


そう帝国兵士が言い終わる前に、聖剣はオレンジ色へと光輝きだし、夜の森を照らす。

 

「おい!その剣をしまえ!」

 

慌てたもう一人の帝国兵士が後ろに下がりながら声を出す。

 

「ごめん。少し痛いかもしれないけど、我慢してね」

 

剣を構え、一気に2人の帝国兵士の間合いへと詰める。そして、同時に斬る。あっけなく終わったな、と思い思念術を終了した直後、周りのからガサガサと音を立てて何人もの帝国兵士が出てくる。

 

マズい、と直感が叫び再び思念術を実行しようとするものの、帝国兵士が詰めてくるのを視界に捉えて、実行を中止する。


そして、聖剣をそのまま使い、相手を斬りつづける。思念術の実行には、3秒はかかってしまう。


その間は無防備な状態になってしまうため、今の状況では発動させることが難しい。


それが分かっているのか、帝国兵士は絶え間なく襲いかかってくる。視認出来たのは30人。そして、後ろからも、前からも輸送車両の音がする。さらには、思念術を実行した代償が体へと襲う。


帝国軍兵士の剣が体へと当たり始める。皮膚が裂ける感覚を直に感じ、痛みが動きを遅くする。


もうダメだ、と思った瞬間、後頭部に衝撃が走り、徐々に意識が遠のいていった。

 



そこに居る人を見た瞬間に、これは夢だと分かった。

 

「ネオ!」

 

シズが笑いながらこっちへと走ってくる。だが、直ぐに立ち止まり、心臓を抑える。

 

「シズ!」

 

慌ててシズの方へと僕が走り出すが、いつまで経っても追いつくことが出来ない。

 

そんな僕を見て、シズは口を開き、こう言った。

 

「大丈夫だよ」

 

そして、霧のように消えていった。

 

「・・・何が大丈夫なんだよ!!!」

 

そう叫ぶと、意識が遠のいていった。

 

痛みが体中に走っている。

 

温度からして屋外ではなく、屋内。そして、微かに伝わる振動から車内だと分かる。

 

目を開けると、天井が見えた。

 

「ここは・・・」

 

思わず、声を出す。

 

「起きましたね。ここは治療車両の中ですよ」

 

左上には黒髪の少女がいた。

 

「シズ!?」

 

思わず声を出してしまったが、違うことに気付く。

 

「違います」

 

予想していた答えがそのまま僕へと帰ってくる。だが、似ていることには変わりない。間違いない、シズが成長したらこの姿になるだろう。髪型、顔つきは姉妹だと言われても仕方がない。ただ、シズよりも身長が高く、恐らく僕と同じくらいだろう。

 

「私はミユ。帝密院2年です」

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