第21話 給油所

「そろそろ給油したいな」

 

車は永久機関ではなく、走行距離に応じた燃料を入れなくてはならない。


一日中、走り続けていたのだが、そろそろ燃料が切れるとのお知らせが赤色のランプを通して僕に伝える。

 

「強盗しかないのか・・・?」

 

燃料は給油所というところで大抵売っている。しかし、僕は共和国の住民だ。帝国通貨なんて持っているはずがなく、買う手段がない。となると、強盗しか考えられないのである。


いやいや、安直だ。と心の声がする。何か換金できるようなものは持っていなかったっけ、と鞄の中身を探る。出てくるのは非常食と服のみ。服は売ろうと想えば売れるだろうが、大したお金になるようなものではない。


こういう時に腕時計は約に立つのか、と思う。これまで、無駄に高い高級時計を身につけている高官を物好きだな、と見ていたのだが、案外このような状況も考えて身につけていたのかもしれない。


・・・考え過ぎか。

 


ともかく、車を一旦止めて車の後ろに詰まれている荷物から帝国通貨を回収することにする。戦場に大金を持っていく兵士なんているとは思えないが、無一文よりはマシだろう。一日分の燃料は購入できるかもしれない。

 

「うん。9384帝国通貨だ」

 

かき集めた結果、結構なお札と小銭を手にした。やってることが強盗と変わらないことに心が痛む。

 

「というか車も奪ってきちゃってるんだよな」

 

そう、それ以前に輸送車両も奪ってる。何だか罪悪感の居所がおかしいと自分でも思ってしまう。

 

「これがどれ位の金額かが分かったら良いんだけどな」

 

そう。共和国と帝国は遮断されているので、どれくらいの通貨レートなのかが分からない。もしかしたら、この金額は家を買うことが出来る程のものかもしれないし、ハンバーガー一つすら買うことが出来ない金額かもしれない。まぁ、とにかく、次に見つけた給油所で燃料の値段を聞けば済む話か。

 

市街地を避けるように帝都へと向かっているから、そもそも給油所を簡単に見つけることが出来ない。当然のことながら、共和国軍兵士に支給されている地図は給油所の場所なんて書いておらず、自分で見つけるしか方法はない。


そんな中でも何とか見つけることができ、給油所に立ち寄る。さっきの通貨を握りしめ、プレハブハウスの中にいるお爺さんに声をかける。

 

「あの、一箱の値段はいくらですか?」

 

「んん~? そんなの決まっているじゃろ。750帝国通貨じゃ」

 

「あ、なるほど」

 

どうやらかなりの量を買うことができるらしい。ちなみに燃料は金属製の箱に入っている形で売られており、大体一日~二日走り続けて消費する量となっている。

 

「それなら10箱ください」

 

そう言って通貨を出す。

 

「ほーい。少し待っての」

 

のんびりと返事をしたお爺さんは10箱の用意をし始める。

 

「そう言えば、おぬしが共和国兵かね?」

 

お爺さんが何気なく放った言葉で全身が凍り付く。

 

「・・・な、なんてこと言うんですか。そんな訳ないでしょ、お爺さん」

 

輸送車両はここから見えない位置に置いてある。何故、分かったのだろうか。


咄嗟にシラを切るが、マズいと直感が告げる。聖剣は輸送車両に置いたままだから、素手でどうにかするしかないのか・・・?

 

「いやいや、そう慌てなさんな。何もしないから安心しなさい」

 

「・・・もし、僕が共和国軍兵だとしてもですか?」

 

「おお、そうじゃ。ココは旧セルドロス領だからの」

 

旧セルドロス領。共和国と帝国の間に存在していた国。だが、遙か昔になくなっており、その名前を聞く機会など殆どない。

 

「でも今は帝国領じゃないですか。捕まえろ、や発見次第報告しろなどの命令が来ているのではないですか?」

 

フォッフォッ~、と独特な笑いをするお爺さん。

 

「帝国さんは昔に旧セルドロス領に自治権を認めているんじゃよ。帝国軍からもらった情報を簡単にまとめると、共和国軍が旧セルドロス領に侵入した。強盗等の犯罪行為に気を付けてください、となるのかの」

 

お爺さんから伝えられた情報は、僕の知っている「事実」としていたものと異なるものが多かった。


それだけにお爺さんに対する不審感が募る。

 

「ほい。全部用意したぞ。そこの荷車を使って車まで運びなさい」

 

「ありがとうございます」

 

「少しお茶でも飲んで行くかい?お気に入りの紅茶を用意するぞ」

 

「・・・少し急いでるんで」

 

「そうか、気を付けなされ」

 

ここに留まると危ない気がする。お爺さんは帝国に報告しないと言っていたものの、信用に値するものがない。


むしろ、報告しろとの命令があったと考えると、お爺さんの言動は理に適うものとなる。

 

すべての準備が終わると、エンジンを掛けて再び走りだす。後部座席には燃料タンクに入りきらなかった燃料を置いており、道のカーブごとに独特の金属音が鳴る。

 

旧セルドロス領を自治区として認めている。そんなことを聞いたことがない。考えれば、考えるほど不審に思えてくる。最初は、自分が知らないだけかと思っていたのだが、悪行を尽くし、自国の利益だけを考えている帝国が、そんな選択肢を旧セルドロス領に与えていたとは思えない。


ハンドルを回しながら、自分の判断は間違っていないと頷く。

 

尚、この判断は間違っておらず、旧セルドロス領の全給油所には共和国兵が来たら報告しろ、との命令が下されていた。また、給油所職員は後に、帝国経済圏で定められている燃料の値段を知らなかったことから共和国兵だと分かったと述べている。

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