第15話 熟考

「それは、僕が軍人だからだよ」

 

理由を言い、言葉を続ける。

 

「あと、帝国をシズは許せるのかい?」

 

僕達は帝国がどんな悪行を行ってきたのかを知っている。


自国の領土を広げたいが為に他国の領土を焼き、民を殺した。


そんな話を幾度となく聞いて育ってきた。


さらには、現在の帝国の政治が酷いことも知っている。


民のことを考えない皇帝が政治を行い、人心が離れているらしい。


だが、独裁的な地位を築き上げている皇帝の座は揺るぎないものとなっている。


それを見かねた帝国の政治家達が共和国に亡命するのは珍しくない話だ。


僕達、共和国の人がこのように帝国の恐ろしさを知ることが出来るのは、彼らからもたらされる話のお陰だ。

 

「分からない。だけど、私は・・・」

 


前から同じ見回りの兵士が来る。聞かれたら軍規により、処罰されるといったことはないと思うが、聞かれない方が良い内容のため、シズの口の前で手を広げる。

 

「お疲れさまです」

 

すれ違う時に挨拶をしておく。

 

「お疲れさまっす」

 

僕よりも若い、ということはないが若い兵士が崩した言葉で挨拶を返してくれる。

 

シズはペコッとしただけで声は出していない。まだ、知らない人に対して咄嗟に声を出すのは難しいのだろう。人見知りも直ってきているとは思うが、まだまだ道は遠い

 

「それで、どうしたの?」

 

「ううん、何でもないよ」

 

シズは少し笑って僕を見る。

 

「そうか。うん」

 

シズが何でもない、と言っているから僕は考えないことにした。考えてしまうと、知りたくないことを知ってしまいそうだったから。

 

手に暖かい感触が広がる。

 

「ネオの手が冷めちゃてるよ」

 

右手を見るとシズの両手で握られていた。

 

「・・・うん、寒いからね」

 

「ダメだよ。風邪引いちゃうよ?」

 

「僕はシズの方が心配だよ。シズは大丈夫?」


季節もそうだが、夜の森は考えられないほど気温が下がる。昼間の気温を基本として服を選んでいたら確実に体を冷やしてしまう。

 

「大丈夫! ちゃんとネオの言う通りの服装にしているから!」

 

夕食後、シズに制服の下に何枚か着込むように指示していたが、ちゃんと聞いてくれたらしい。

 

「それなら大丈夫だね」

 

手が寒いから、ということは自分の左手を首に当てると、そこまで冷えてないことが確認できる。どうやら、気配が一切ない森を歩くのが怖かったから、手を繋ぎたかったらしい。


分かってしまったけど、わざわざ言って困らせたいっていう意地悪思考をしていないから、それからティトとレイの下に戻るまで手を繋いでいた。

 

遠征中の睡眠は輸送車両内にてとることとなっている。娯楽用の車両ではないため、シートは固く寝にくいが、贅沢は言ってられない。

 

「それじゃ、俺は寝るぜ」


 ティトが一番に寝袋へと潜り込む。

 

「私もー。皆、おやすみ」

 

レイもティトに続き、眠りの世界へと飛び立つ。

 

「シズも早く寝るんだぞ」

 

助手席でボーとしているシズに声をかける。

 

「うん」

 

素直な返事を貰ったところで、考え始める。


やっぱり、この異様な程の敵の動きは熟考すべきではないのだろうか。


帝国は決して安易な考えに走るような国ではない。戦っているから分かるのだが、優秀な司令官が居て、優秀な部下がいるからこそ共和国の軍勢を何度も阻止している。


だからこそ、帝国がこの不利な状況を自ら作っているとは思えないのだ。


もしかしたら、帝国内部で争いが起きており、外部に目を向けるような状態ではないのかもしれない。だとしたら・・・・。


いや、あり得ない話ではないが、あまりにも楽観的な思想だから想定の土台とするべきではない。


やはり、何かの策が共和国の知らないところで実行されているのではないだろうか。


地図を見ると、ここから先に大きな谷が存在する。本来ならば回り道をして帝都に向かう予定だったが、帝国軍が一切見られないため、谷を通る方向へと計画が変更された、と無線が伝えた。


確かに、この谷を通ると帝都まで行く時間をかなり短縮できる。それによって移動による疲労も軽減できるため理にかなっているのだが、敵が待ち伏せするには一番適している場所である。


無論、それを理解していたからこそ司令部は避ける選択肢を選んでいたのだが、この谷を通ることで数日間の余裕が生まれるという甘い果実が目にちらつくと選択肢を変えざるを得なかったのだろう。

 

ため息をついて、窓の外を見る。いろいろと考えて、上に提言しても意味はないだろう。それが分かっていて尚、考えてしまうのはただの労力の無駄だと十二分に理解している。それを何度も自分に言い聞かせ、寝袋を取り出す。僕たちは兵器であり、考えなくても良い。


ただ、明日もシズと過ごせることを切に願いながら目を瞑る。

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