第14話 微かな不信感:大規模遠征開始

朝が来ない日なんてものは存在せず、どれ程望んでいなくてもやってくる。早朝から車両基地に集合し、出発定時まで車内待機となった。車両基地を歩いていると前を行くティトとレイを見つけた。

 

「おはよう、二人とも」

 

「おう。遅刻してないな」

 

「おはよー!」

 

二人とも寝不足という風には見受けられない。きちんと睡眠は取れたのだろう。

 

「お、おはようございます・・・」

 

シズも珍しく自分から声をティトにかけている。

「おう! 今日からよろしくな!」

 

「は、はい」

 

「ティト! 声がうるさい。朝だよ?」

 

「お、おう・・・」

 

何故かティトはレイに弱い。もし、将来奥さんが出来るなら尻に敷かれるタイプだと密かに思っている。

 

「シズちゃん、おはよー!」

 

「うん。おはよー」


レイには普通に挨拶を返し、僕の隣に立つ。

 

「ネオ、おはよう?」

 

「・・・うん。おはよう」

 

何故か挨拶してきたシズに戸惑いながらも、一応返しておく。

 

「それで、車両はあれで合ってるよな」

 

ティトが指差した輸送車両は、資料に書いてあった割り当てと番号が一致する。


「そうだね。僕が最初は運転するよ」

 

「・・・そうだな。任せるよ」


後ろに荷物を詰め込み、エンジンをかける。こんな遠征に願う未来はない。ただ、僕はシズを守る。これだけが僕が僕自身に定めている使命だ。

 

しばらく道を進み、国境付近まで近づく。これまでは共和国領土だったため戦闘になる心配など微塵もなかったが、今からは帝国領だ。いつ、どのタイミングで迎撃されるか分からない。

 

「ネオ、先頭が帝国領に入ったって」

 

「分かった」

 

助手席で無線送受信を担当しているシズが報告する。予定よりも少し早いな、と思いながら前方車両と等間隔を保つように運転する。

 

今回の遠征は第三基地の約半数に当たる1,200人の人員で決行されており、特務聖剣部隊は三分の二が参加している。


これが、帝国へ遠征中に共和国が侵攻された場合に何とか対応できる人数を残した結果なのだろう。


特務聖剣部隊が半数以上参加している遠征は過去になく、戦闘力的にも遠征距離的にも今回のものは最大規模のものだろう。

 

帝国領にしばらく進軍するものの、帝国軍の気配は一切ない。帝国側の国境警備隊が共和国の進軍について気付いていない、ということは考えられないだろう。不穏な気配すら感じるが、今は進むしかない。

 

「今日はここまでか」

 

日中、帝国領へと侵攻を続けてきたが、一切の敵対行動を確認することが出来なかった。


いっそこのまま、帝都陥落まで自由にさせてくれれば良いな、と甘い考えを抱いてしまう。。

 

「何かおかしいと思わないか?」

 

ティトが後部座席から出て、最初のキャンプ地となった森林に立つ。

 

「うん、おかしいと思う。もしかしたら、帝都近くまでおびき寄せて最大戦力で叩くつもりなのかもね」

 

軍人として、もっともありそうな選択肢を考える。

 

「まぁ、そうだよな。だが、戦力差を知りならその戦略はおかしいと思うぜ」

 

「そうなんだよね」

 

共和国軍の戦力は帝国軍を遙かに上回っている。というよりも特務聖剣部隊だけで帝国軍全てを壊滅することが可能だ。


その為、これまで帝国軍は共和国に侵攻された際には消耗戦を行ってきた。


共和国と帝国との国境から帝都までの距離を活かし、何戦も共和国軍にさせることで撃退を行ってきた。


しかし、撃退出来ていたのは消耗戦を仕掛けていたからである。1度だけの全面戦争であるなら、この遠征軍だけでも帝都陥落は容易だ。


もしかしたら、帝国軍の戦略次第では勝てるかもしれないと共和国軍兵士は段々と気付き始めた。

 

「シズちゃん、これ食べれる?」

 

「あ、私も無理・・・」

 

どうやらレイもシズと同じように野菜が嫌いらしい。キャンプ地の見張り当番までは時間がある為、たき火を囲い、4人でご飯を食べる。

 

「ちゃんと食べろよ、レイ」

 

「嫌だ! ほら、ティトに上げる!」

 

「誰がお前の食べカスを欲しがるか! 自分で食べろよな!」

 

「まだ口付けてないしー!」

 

どうやらこのペア恒例の言い合いが始まった。車内では静かにしていたんだけどな。このペアが言い合いをしていない日を僕は見たことがない。

 

「シズはちゃんと食べてね」

 

言い合いをするペアを横目で見て、シズは大人な判断を下す。

 

「うん・・・」


ご飯を食べ終わり、見張りとして僕とシズはキャンプ地の周りを歩く。途中で同じ時間帯の見張りとすれ違うくらいで、自然の静けさを実感する。

 

「ネオ」

 

「どうした?」

 

唐突に後ろから名前を呼ばれる。

 

「・・・何で、戦うの」

 

思ったよりも、根源的で本質的な問題を提起され、思考の歯車が止まる。

 

「どうして、ネオは戦うの?」

 

繰り返される問いに僕はこう答えるしかない。

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