第13話 前日

遠征前日。最後の会議が開始される。ティトと並びの席に座り、会議が始まるまで喋る。

 

「扱えるようになったんだってな? お前も化け物になってしまったか」

 

ラウラから聞いたのだろう。特に知られたらマズいという訳ではないので答える。

 

「まぁ。昨日にやっとだけどな」

 

昨日、最後に10分間、思念術を使いながら動くことが出来た。


だが、10分間である。10分間を超してしまったら倒れこむ形で床に座ってしまったので、もし敵に10分間耐えられるようなことがあったら確実に危ない。

 

「大したもんだと思うぜ。っとそろそろ始まるか。ネオ、今日は静かにしておくんだぞ」

 

「出来るものならしておきたいよ」

 

総司令官が会議室に入るタイミングで直立不動の格好をとる。そして、形式的な敬礼などが行われた後、会議が始まる。

 

会議では企画段階から全く改変されていない遠征計画を最終確認する。


気が重くなるような遠征だ。思念術士や兵士にはローテーションを組み、連戦はないと書かれているがいつまでこのスタンスを維持できるのだろうか。


帝都に近づけば近づく程、敵の攻撃は激化すると思われるし、文字にして記しているだけで、本心から書いているとは全く思えない。


おおよそ、途中からローテーション制は廃止されるのであろう。


もう既に何回も同じ内容で会議が開かれている。


窓の外の世界を何も考えずに見つめる。


もし今頃、僕が兵士でなかったら何をしていたのだろう。


友達と遊んでいたのだろうか。学校で勉強していたのだろうか。


だけど、その世界にシズが居ない。もしかしたら、シズが居ないのなら。


そんな世界に行けるとしても行かないかもしれない。


この世界はシズが居るからこそ、僕にとって意味があるんだと再認識する。

 

会議が終盤に差し掛かってきた。今回はどうやら意見を求められないらしい。


何しろ、これまでの会議では何度も総司令官と目が合う機会があったのだが、今回に限り一度もない。


どちらかというと避けられているように感じる。


どうやら、総司令官の執務室まで行って直接抗議したことがここにきて活かされているらしい。


本来とは違う活かされ方をしたけど、これはこれでありがたいな。

 

結局、何事もなく会議は終了し、ティトやラウラと一緒に宿舎へと帰る。


ティトが話題を切り出した。

 

「今日は何も言われなかったよな」

 

「うん。僕も意外だったかな」

 

「まだ周りに人がいるから止めときなさい」

 

ラウラが周りを気にして会話を止める。

 

「それにしても遂に明日になってしまったわね」

 

「あぁ。本当に待ち遠しくて仕方なかったな」

 

顔を歪めに歪めて皮肉百パーセントの回答をするティト。

 

「明日は朝早いから、早めに寝なくちゃね」

 

朝が早いことを思い出して言う。

 

「そうね。シズちゃんと寝られるのも明日からしばらくお預けね」

 

「へへっ、ネオは我慢出来るか?」

 

「そういうことは良いから!」

 

笑いながら夕焼けが差し込む廊下を渡る。

 

「あら、夕焼けが今日は綺麗ね」

 

「本当だな。最近にしては珍しいぜ」

 

3人で夕焼けを見つめる。誰も口にはしていないけど、この3人で夕焼けを見る事が出来るのは最後かもしれないと全員が思っているだろう。


遠征に出る特務聖剣部隊は二分されており、縦長の陣形の中で僕とティトは前側。ラウラは後ろ側に配属されている。


どちらか、また、引くタイミングを間違えればどちらとも壊滅する可能性は高い。


そんな事を考えてしまう程に、今回の遠征は無茶なのである。

 

部屋に帰ると、シズが部屋で待っていた。

 

「変更点はあった?」

 

「全くなかったよ。シズの準備は出来ている?」

 

「大体は出来たよ! あとは洗濯物が乾くのを待つだけ!」

 

「偉いぞ」

 

頭を撫で、ちゃんと会議中に準備を終わらしたことを褒める。


あとは洗濯物か。そういえば、僕の用意はまだ出来ていなかったな。今からしないと。

 

今回は帰還予定が未定の遠征の為、なるべく持ち込めるものは持ち込みたい。


輸送車両もティトのペアと同じなので、荷物が多くなっても謝りやすい。


頭の中で必要なものと必要でないものを分ける作業を開始する。

 

それから食堂に行き、シズとご飯を食べる。どうやら遠征前ってことを反映したのか、いつもの食事よりも豪勢となっている。

 

「今日の料理がいつも出されたら良いのにな~」

 

シズが満足した顔をして、直後のお茶を飲む。

 

「それは贅沢過ぎだっ」

 

コツンと優しくシズの頭を叩く。今日の肉は軍で出るものとは考えられない程柔らかかった。


ここの基地全員分が必要だったと考えれば、相当な金額がかかったのだろう。


遠征前に少しでも良い飯を食べさせて、印象を良くしようと考えている政治家の思惑かもしれないが・・・。


自分でも、こんなに考え方がひねくれ始めたのかと驚き、ため息をつく。

 

「どうしたの?」

 

「いや、僕の性格が悪くなってきているなって」

 

「そう?」

 

「うん」

 

「それじゃ、今日は一緒に寝て良い?」

 

「どういう会話のつなぎ方だよ! 今日は自分の部屋で寝たらどうだ?」

 

最近は殆ど僕の部屋で寝ている。というか、頻度が前よりも多い気がしてならない。

 

「あ、意地悪だぁ!」

 

「・・・シズは意地悪だね」

 

「違うよ!」

 

必死に否定するシズを見ると笑えてくる。

 

「何で笑うのー!」

 

「何でもないよ」

 

「ネオの意地悪!!!」

 

食事を終え、一旦シズの部屋に帰らせて、僕は明日への準備をする。さっき頭の中で作ったリスト通りに入れると、軍支給の鞄に何とか収まった。あと数個増やしたら鞄に入りきらないだろう。

 

それからシャワーを浴び、もう一度荷物を確認し、ベッドの中へ入る。・・・暖かい?

 

「ってビックリした!!!!!」

 

思わず大きな声が出てしまう。

 

何か生き物に触れたような感触がして慌ててめくると、そこにはシズがいた。

 

「バレちゃった?」

 

「ビックリするよ! いつ入って来たの!?」

 

「ネオがシャワーに入ってた時だよ。声掛けても反応なかったし、バレてないと思ったから隠れてた!」

 

「勘弁してよ・・・。もう、早く寝るよ」

 

「えー、もうちょっと起きていようよー」

 

確かにまだ時刻は7時。最近は思念術の練習をしていたから出来なかったけど、普段なら二人でお茶を飲んでいる時間帯だ。

 

「ダメ。明日、朝早いから」

 

「・・・はーい」


大人しく布団に入るシズ。電気を消し、枕をシズに譲る。

 

「・・・一緒に頑張ろうね」

 

小さな声でシズが呟いた。

 

「勿論」

 

僕はそう返すしかなかった。

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