第16話 発生

「ほら、朝だよ」

 

出発予定時刻の三十分前になっても寝袋の中で幸せそうな顔をしているシズを呼ぶ。

 

「シズちゃーん、そろそろヤバいよ!」

 

レイもシズの頬を触り、起こそうと企んでいる。


「・・・ん、ネオ・・・くすぐったい・・・」

 

目を開けてないシズが頬を弄っている人物を確認せずに呟く。

 

「おいおいおおい・・・ネオ、お前ってやつはそんな事までしていたのか!?」

 

朝食を食べていたティトがニヤニヤしながら会話に参戦してくる。

 

「いやー流石だね! うん、私はティトにされたら絶対許さないけどね!」

 

「絶対にしないわ! 誰がお前の頬を触りたいんだよ!」

 

「あ、そうやって直ぐに女の子に言葉の暴力を浴びせるのは悪い癖だよ!」

 

「それを言うなら上司には敬語を使え! 敬語を!」

 

「はぁ。これのどこが上司? 上司を名乗るなら上司らしい立ち回りをしてからにしてよね!」

  

朝から始まってしまったか・・・。


なるべく他の兵士に異常なグループだと思われたくないから、大きな声は出して欲しくないけど、ヒートアップしている中に飛び込む勇気なんて1ミリも持ち合わせていない。

 

「おはよう、ネオ」

 

睡眠状態から回復したシズが起き上がる。

 

「・・・シズ、ちゃんと起きてから言って欲しかったな」

 

ん? と可愛く首をかしげるシズ。うん、その仕草を見ると可愛すぎて怒れないよ。

 

今日も前車両を追いかけるだけの輸送車両。ただ、今日は谷を通らなければならない。


結局、上には提言せず変更されたプラン通りに動く。ここから数十分のところにある谷の入り口。


嫌な予感はするけど、向かうしかない。

 

谷の入り口に差し掛かると、司令部からの伝達あった。

 

―最大速度で通過せよ

 

司令部もこの谷の危険性はやっぱり理解しているらしい。


隊列が崩れる恐れがあるリスクを知りながら、最大速度で通過せよと言う指令がそれを表している。

 

「シズは右上、ティトは左上を見ておいて」

 

「うん」

 

「おう」

 

「私はー?」


「レイも右上をお願い」

 

「分かった!」

 

下から索敵を行うのは随分難しいけど、やらないよりはマシだ。

 

谷に入り、どの車両もハイスピードで道を行く。すぐに谷の真ん中に到達し、敵軍が待ち伏せしているというのは思い過ごしかと安堵した瞬間、目の前に壁が形成され始めた。

 

「ネオ! 右に切れ!」

 

言われるままにハンドルを右に切る。

 

180度輸送車両を回転させ停止させるが、ここの左右の崖も崩れ始め、車両への直撃を免れないと確信する。

 

「シズ!」

 

シズを守るために、運転席から助手席に飛び込み、シズを庇う。崖の上から攻撃されることは想定していたが、崖を崩すとは思いもよらなかった。


後悔の海は瓦礫という波に化して僕へと襲いかかる。

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