第11話 認可下りず

申請を出してから3日が経過したが、僕は銃を手にしていない。手にしたものは認可が下りなかったと書かれた紙切れ一枚。

 

「これはどういうことだと思う?」

 

昼時も過ぎているが、夕方とも言えない時間帯に食堂でティト、ラウラ、僕の3人で集まっている。


周りに人はおらず、この時間帯の食堂は集まる時に良く使う。

 

「それ、断られるパターンがあるんだな。レアかもしれないぜ」

 

ティトが珍しい物を見るように紙を覗き込む。

 

「そう。それが知りたい」

 

「・・・そもそも、拳銃を所持している人が少ないから何とも言えないけど」


ラウラが言葉を選びながら慎重に答える。

 

「恐らく、これまでにその紙をもらった人は居ないでしょうね」

 

「そうだよね? やっぱりだよね・・・」

 

「まぁ、普通に考えて許可されないって事態はないしな。何なら特殊兵だからな。何かやらかしたのか?」

 

「特にした覚えはないけどね・・・。ラウラ、この認可申請書って総司令官も閲覧するのかい?」

 

もし、認可を行うのが総司令官だったら覚えがないってことはない。

 

「あ、そうだったわね。そうよ、それね。これは総司令官宛の書類となっているから、必ず総司令官が目を通すわ」

 

「あー・・だからかぁ」

 

総司令官とは直接的な会話は交わしたことがない。だけど、会議にて必ず反対意見を僕が出してしまうので、確実に嫌われている。


最近では、あえて僕に発言させて否定するのが彼の趣味となっている気がする。

 

「あれだけ反対するなって言ってたけど、ここに来て実害が発生するとはね」

 

ラウラが呆れたように声を出す。

 

「全くだ。逆にこれくらいで済んでいることに感謝すべきなんだぞ」

 

「何が感謝なんだよ。戦力を削って面白い、とでもこの司令官は考えているのか?」

 

「・・・珍しいな。ネオが怒ってるぜ」

 

「そうね。今日は魚でも降るのかしら」

 

コソコソと話始めるティトとラウラ。

 

「僕だって怒る時は怒るからね? とりあえず、理由を直接聞いてくるよ」

 

「・・・おう。マジか」

 

「うん。これに私怨を使うのは納得出来ない」

 

「私もついていってあげるわ。ネオに比べて私は好感度が高いから役に立つと思うわ」

 

「ありがとう。行こう」

 

もう一度、マジかよ、と呟くティトを置いて高官の執務棟へと向かう。


総司令官の名はダグラス。1度も実戦経験が無く、政界出身の軍部高官だ。


もはや、この時点でおかしいと思うが、仕方ない。


この共和国軍は憲法上内閣の下に所属しており、政界からの干渉を多く受ける。

 

総司令官室の前に立ち、深呼吸をする。

 

「それじゃ、入るよ」

 

「ええ」

 

ドアを3回ノックし、返答を待つ。

 

「どうぞ」

 

張りがなく、しわがれた声が帰ってくる。


ドアを開け、部屋に入る。

 

「特務聖剣部隊、ネオ特殊兵です。お時間は大丈夫でしょうか」

 

「ほほう」


目を細めて僕の顔を見る。


「私は同部隊、ラウラ特殊兵。ネオ特殊兵の付き添いです」


「それで、一兵士の身でありながら、私にどんな用があるのかい」


見るからに高価な椅子に身を沈め、ゆっくりと尋ねる総司令官。


「はい。先日、私が提出しました認可申請書につきましてお尋ねしたいことがあります」 


「・・・何故、認可しなかったのかと」


ニヤニヤと気味が悪い笑いを口元に浮かべている。


「はい。差し支えなければ理由を教えて頂けないでしょうか」


「もちろん。きちんとした理由があるんだよ」

 

きちんとした、をやけに強調しながら言う。


「一番大きな理由が剣に集中してもらおうと思っているからだよ。君はそこそこの評価を受けているらしいが、君の隣にいるラウラ特殊兵と比べたら、まだまだじゃないのか?」

 

「はい。それはご指摘通りでございます」

 

思ったよりももっともな理由を言われて、その部分については認めざるを得なかった。

 

「ですが、先日、私が提出した報告書をご覧になられましたでしょうか」

 

「どの報告書かな」

 

「特務聖剣部隊の欠点について記したものであります」

 

前回の出動が終わってから急いで作成した報告書だ。帝国軍が特務聖剣部隊を壊滅させる為の暗殺部隊、L2を作っている事実の再確認。


それに対抗する為に考えられる手段。これからの特務聖剣部隊においての在り方について、僕とティトが書き上げた。

 

「・・・あー。あれか」

 

総司令官の目が空中へと逸れる。これは、確実に見ていないな。

 

「申し訳ないけど、意味がないものだったよ。だから考慮していない」

 

「・・・左様ですか」

 

「つまり、軍の方針として、君に拳銃を支給する訳にはいかないんだ。残念だけど、これで大丈夫かい? 私は忙しいんだ」

 

「分かりました。失礼致しました」

 

ドアの方へと歩き、思いっきり閉めたいと荒ぶる感情を沈め、音を立てないようにゆっくりと閉める。

 

執務棟を出ると、これまで無言だったラウラがポツリと言う。

 

「ごめんなさい。何もできなかったわ」

 

「いや、大丈夫だよ。僕も最初から何を言っても意味がないのは分かっていた」

 

「拳銃は私が貸すわ。それでシズちゃんを守ってあげて」

 

思いつめたように下を向き、声を出すラウラ。

 

「それは軍規違反だ。大丈夫だよ。僕は僕が出来ることをするさ。そして、悔しいけど、聖剣の腕が優れていないことは事実だしさ」


これに関しては納得せざるを得なかった。間違いない。

 

「私が居たから比較されて・・・」

 

「大丈夫だよ。それより、これからどれだけ僕が成長するのかを見ていて欲しいな」

 

何も浮かんでいない真っ青な空を見上げ、努力を誓う。これまでは、シズを守る為なら何でもすると言っていながら、無理だとか難しいとか諦めていた。


これは良い機会かもしれない。自分を見つめ直すチャンスをくれたことに僕は総司令官に感謝しなければならないな。

 

「ネオ、あなた素面でそんな事を言えるなんて凄いわね・・・」


さっきまでの自戒の表情は既にラウラから無くなっており、見えるのは呆れて少しの笑いを浮かべている顔。

 

「え? ちょっと待ってよ」

 

「はぁ、本当にネオと居ると常識が上書きされるわね」

 

「え、え? どういう意味!?」

 

「さっ食堂に戻るわよ。コーヒーを奢ってあげるわ」


「え、えぇ・・・」

 

どうしたんだよ急に。シリアスなムードから一変したよ。ま、元気を戻してくれて何よりだ。これを期に銃のことは考えないようにしよう。

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