第9話 中規模進軍後

「レイ、シズはどうだったんだ?」

 

シズの後ろ姿が車の中に消えたのを確認して、レイに尋ねる。


「最後の思念術を行使した後が一番大変そうだったかも。急に胸を押さえ始めて・・・」


「分かった。ありがとう」


それだけ聞くとレイと一緒に輸送車両へと向かう。

 

「帰還命令が出てるぞー。早く乗ってくれ」


ティトが運転席の窓から乗りだし、早くしろとジェスチャーする。


「僕が運転するよ」

 

「シズの事が気になるんだろ。ネオは後ろでシズの様子を見とけよ」


「ありがとう。甘えさせてもらうよ」

 

「当たり前だから気にするな!」

 

輸送車両の後ろに乗ると、既にシズが座席に座って待っていた。

 

隣に座ると、後悔が一気に押し寄せてくる。


あの時、後ろに下がらず剣だけで何とか戦えた気がする。決着を付ける為に焦って判断した僕自身のミスだ。


本当に自分が不甲斐ないし、どうにも許せない。

 

「ネオは正しかったからね」

 

隣に座って窓の外を眺めていたシズが僕の耳元に口を持っていき、囁く。


「私も、ネオが頼ってくれて嬉しかった」

 

それだけ言うと、頭を僕の肩に乗せ、目を瞑った。


そんなことはないと分かりながらも、シズが呼吸しているか確認する。


確かに、僕は軍人として正しい選択をしたに違いない。


だけど、それによってシズが守れなかったら意味がない。


僕が生まれて初めて守りたいと思ったのはシズだが、それが壊れやすくて、脆いことを改めて感じさせられた。


「うん、特に異常はないよ」

 

検査室に入ってるシズの診断結果を見ながら軍医さんは言う。

 

「胸の痛みは負荷がかかって発生した一時的なものだね」

 

その言葉にホッと胸をなで下ろす。

 

「それでも気をつけなければならないよ。今回みたいに二回連続でも小さな痛みが出たんだ。これ以上重ねるとどんな症状が出てくるか分からないからね」


「はい。お時間を頂いて申し訳ないです」

 

基地に帰還して直ぐに対応してくれた軍医さんにお礼を言う。

 

「いやいや。これが仕事だからね。ほら、もう夜も・・・いや、もう朝だね。今日はゆっくり休憩しなさい」

 

「はい! 失礼します」

 

検査室の前で待っていたシズが駆け寄る。

 

「それで、私の結果はどうだった?」

 

「特に変わったところはないって」


「ほらー。言ったでしょ?」

 

絶対何もないから、と軍医さんの所へ行くことを嫌がっていたシズが少し怒ったような表情をする。

 

「ごめんごめん。だけど、やっぱり気を付けないといけない状態だから、何かあったら直ぐに言ってね?」

 

「えー・・・」


あからさまに嫌そうな顔をするシズ。


「ダメかな?」

 

下手にでてお願いをしてみる。

 

「しょうがないなぁ! 何かあったら言ってあげるね!」

 

「うん」


 頭を撫で、ありがとうと呟く。

 

「もう眠いのに朝日が出てしまうよー」

 

「大丈夫。今日は予定がないからゆっくり眠れるよ」

 

「本当!? じゃあ、今日はネオのベッドで寝て良い!?」


「・・・今日だけだよ」

 

「やったー! それじゃ、着替えてくるからね!」

 

そう言うと、宿舎まで走って行くシズ。本当にこれだけで喜んでくれるのは嬉しいけど、少し恥ずかしい。そして、どうやら僕の睡眠時間は無いようだ。

 

自分の部屋に戻り、シャワーを浴びる。部屋着に着替え、シズが部屋に来るまで布団の中で待つ。


今日は久しぶりの出動だったせいか、体が限界だと訴えている。


暗殺部隊L2についての報告は起きてからで良いか・・・・あ、寝てしまったらダメなんだっけ・・・・。


勝てない睡魔が襲い始めて来た。せめて、シズが来るまで起きていないと・・・。

 


目を開けると、部屋の中に夕陽が差し込んでいる。どうやらシズが来るまでの間に睡魔を抑えることが出来なかったらしく、枕も一人で占領していた。

 

シズの方を見ると、パジャマのボタンが外れていてセクシーさを追求したかのような格好となっている。

 

「男子の前でこういう格好はして欲しくないかな」

 

独り言を呟きながら、シズの体を見ないようにしてボタンを止める。手元を見ずに、そして、シズに見られたら誤解される状況からくる焦りでなかなかボタンを上手く止めることが出来ない。


そして、数分もシズのボタンと格闘し、何とかシズにバレずに止めることを成功させた。

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